今シーズンのF1もWECもWRCも終了して、あちこちで表彰式やらなにやらが始まっているが、同時に来季のドライバーが次々と発表されるに及んで、私は少々ガックリ来ている。ここではF1に限って話をするが、各チームのドライバー獲得の物語が陳腐に過ぎる感じがしてならない。

 フェラーリがフェリペ・マッサを切ってキミ・ライコネンを獲得したのは仕方ないだろう。マッサは個人的に好きなドライバーだが、実力低下は明らか。トップチームであるフェラーリとしては、力の落ちてきたドライバーを使い続けることは出来なかったということだ。フェラーリはチームの成績がすべてである。メルセデスは今年と同じニコ・ロズベルグとルイス・ハミルトンのコンビだが、ロズベルグに押され気味のハミルトンの来季の奮起が欲しい。ただ、ハミルトンをメルセデスに移籍させた功労者のロス・ブラウンがチームを離れることになり、ハミルトンにその影響が出なければいいが……。

 あまりよく理解できないのがレッドブルとマクラーレンの人選だ。特にレッドブルは引退するマーク・ウェーバーに代わり、セバスチャン・ベッテルのチームメイトとしてダニエル・リカルドを起用したが、このリカルドの実力がよく分からないので、私は本当にこの人選が成功だったのか否か懐疑的だ。

 これまでのトップチームの人選は、少なくとも実績を上げたドライバー、あるいは多くの関係者が高く評価したドライバーの中から行われた。そして、そうした評価を得たドライバーは良い仕事をする。だが、リカルドがこれまでそうした評価を受けたかといえば、私は決してそうではないと思う。ウェーバーと比べると、チームの戦力低下は明らかだろう。では、なぜリカルドなのか? レッドブル子飼いドライバーの中からドクター・マルコがピックアップしたに違いないが、“ウェーバーのようにベッテルと問題を起こさない”ドライバーで、手持ちの中で最も優秀だったということだろう。

 マクラーレンはケビン・マグヌッセンを獲ったが、これはセルジオ・ペレスにほとほと手を焼いていたことが分かる。といってもペレス自身ではなく、彼が持ち込む予定のTelemexマネーの未着という事態だ。「だからメキシコ人は信用にならない!」とマクラーレンの関係者が言ったとか言わないとか。でも、かつてマクラーレンでアシスタント・マネージャーとして働いていたジョー・ラミレスほど素晴らしい人物はいなかった。彼はメキシコ人だ。

 恐らく、マクラーレンの首脳陣はマグヌッセンの起用が少し早いことは覚悟の上だろう。しかし、Telemexからの資金が約束通りに振り込まれないことでペレスに肩身の狭い思いをさせるより、放出して身の丈にあったチームで走らせる方が、彼のためにも良いと考えたに違いない。加えて、噂ではあるが日本企業のスポンサーも決まったそうだし。ペレスはそのおかげでフォースインディアに押し込まれることになりそうだが、マクラーレンのマグヌッセンより伸び伸びとしたレースをするのではないかと思う。

 さて、私がガックリ来ている肝心の話はここからだ。ロータス、ザウバー、フォースインディア……といった中堅、あるいは下位チームのドライバー選択に関する話だが、彼らのドライバー選定基準は、とにかく「その辺りに余っている誰でも良い」状態になっている感じがする。覗いてみよう。

 今年の中堅チームのドライバー・マーケットは、恐ろしいほど空虚な動きに終始した。それというのも、今やF1チームは資金の枯渇からギリギリの活動を強いられており、少しでも多くのスポンサー資金を持ち込んでくれるドライバーを確保するのが当たり前になっているからだ。好例がロータスと契約したパストール・マルドナドで、一説によれば50億円を超える資金を持ち込んだとか。このマルドナドがどのチームと契約するかが焦点だったというのだから、ドライバー・マーケットも疲弊したものである。

 投資会社のクアンタムがロータスのチーム株式の35%を購入すると言われているが、送金に時間がかかっているとかでもう2週間。そこで誰もがこのクアンタムは食わせ物だと分かったわけで、ロータスもそんな食わせ物を待つより目の前で「僕は金持っていますよ」というマルドナドを雇う方がよっぽどマシ、と決断したわけだ。そりゃあ決断するでしょう。マルドナドが用意したのは50数億円ですから。クアンタムの金なんかいらねえよ、と。

 では、ロータスがドライバーとしてのマルドナドを評価したかと言えば、私はしていないと思う。ロメイン・グロージャンが立派に育ってきたので、ライコネンを失っても彼の穴を埋める才能を探さなくてもよくなったと判断したのではないか。それよりも活動資金が欲しい。であるなら、現在のドライバーの中で最も多額の資金を用意できるマルドナド、という結論なのだ。運良くマルドナドがウイリアムズに三行半を叩きつけて飛び出して来た。ロータスには最高の環境が揃ったというわけだ。

 マルドナドがロータスに決まった後は、もうなし崩し的に中堅チームのシートが埋まりそうな感じだ。フォースインディアにはヒュルケンベルクが決定しており、そのチームメイトには前述のとおりペレスの名が挙がっている。ペレスがフォースインディアとなれば、ザウバーはフォースインディアから追い出されたスーティルを雇うはず。チームメイトにはグティエレスだろうか……とまあ、こんな調子である。

 つまり、中堅チームは、トップクラスには入れないドライバーがたむろする場所になりつつある。そして、ひとたびここに足を踏み入れたらもう抜け出せない。フェラーリに乗りたいと言っても話さえ聞いてはもらえない。現実はかくも厳しいものだ。

 ところで、小林可夢偉はどうしたんだろう? この原稿を書いている12月3日の時点では、フォースインディア、ザウバー、マルシア、ケータハムといったところのシートがひとつふたつ空いている。グティエレスを押し出してザウバーに出戻っても恥ずかしくないし、フォースインディアでヒュルケンベルクのチームメイトになっても良いはずだ。だが、ここ数週間の海外のモータースポーツ誌を見ても、小林の名前はどこにも見当たらない。う〜ん、来年も無理か? あるいは、深く潜行して交渉に当たったどこかのチームから発表があるのか?

 というわけで、混迷を極めるドライバー・マーケットを歩いてみたが、上記のような状況になるのは、現在のF1グランプリは金がかかりすぎるということに尽きる。加えて、中堅のF1チームが新しい才能を使うことのリスクを敢えてしないからだろう。いきなりの若手を走らせることはリスクを伴うが、それでも可能性に賭けるマクラーレンやレッドブルは流石、ということになる。F1はこうでなければいけない、とわかっているのはやはりトップチームだけか?

赤井邦彦(あかいくにひこ):世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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