小林可夢偉のF1グランプリ復帰が決まりそうだ。2012年末にザウバーF1チームから放出され、2013年はフェラーリでWECに参戦した。その間にも休むことなくF1復帰の道を探していたのだろう。その努力がいよいよ実りそうだ。現在入手している情報では、すでに報じられている通り2014年にケータハムF1チームのドライバーとして、新人のマーカス・エリクソンと共に走る事になるという。
ケータハムF1チームは、LCC(格安航空会社)エアアジア 代表のトニー・フェルナンデスがロータスの名前を使って始めたF1チーム。2012年にチーム名をケータハムに変更してF1グランプリを闘ってきたが、その間一度も入賞記録がなく、最も失敗したチームとも言われる。今年はシーズン途中でフェルナンデスが代表を降り、ルノーF1から来た35歳のシリル・アブテブールが代表としてチームを運営した。しかし、2013年の成績は散々。入賞は一度もなく、選手権では11チーム最下位になった。選手権10位のチームまでFOMから配分される配当金、旅費なども手に入らない。これはチームの活動に資金面で痛手だ。
ケータハムF1チームの低迷にはいくつも理由があるが、最も大きな理由はチームを始めたフェルナンデスがF1に興味を失っているという点がある。そもそも彼は格安航空会社経営がメインビジネスで、F1チームやサッカーチームの買収は、ビジネスを広げるための手段。だから、始めた頃には多額の投資をしても、そこから利益が得られないとみると徹底的な引き締めを行ってくる。チーム名をロータスからケータハムに変更したのも、契約問題がこじれてロータスの名前が使えなくなったこともあるが、ケータハムとして自動車産業に参画するためだ。そのひとつとして、スズキの軽自動車用エンジンを載せたスポーツカーを発表している。そうしたアプローチだから、これまでほとんど自腹を切っての運営だったF1チームも、来年に向けては投資額を極端に抑えた。よって、チームは持参金を用意出来るドライバーの獲得に動き始めたのだ。
小林可夢偉のケータハム入りの噂は、こうしたチームの活動資金不足という状況が後押しした。当初、ヘイキ・コバライネン、ポール・ディ・レスタ、シャルル・ピックらの名前がドライバー候補として上がっており、小林の名前を聞くことはなかった。そもそも、2013年のシートをケータハムに得たといわれていた小林だが、彼はその時には「ケータハムのような下位チームでは走りたくない」と、勝手に契約を結んできたといわれるマネージャーと別れている。自分の才能はもっと上位のチームで生きるはずだという自負があったのだろう。だが、チームへの持ち込み資金を得るために寄付金まで募って資金を集めたのに、どこのチームからも声はかからなかった。それが1年経った今、大金を持ち込んで、一度自ら加入を拒絶した最下位チームとの契約を結びつつある。用意した持参金は約6億円といわれる。その中には彼がF1復帰を望んで支援者から募った寄付金も含まれているのだろう。彼を支持して寄附したファンにとれば、加入するのが最下位チームであるとはいえ、そのお金がやっと正しい使途(というのもおかしな理由だが)で使用されると聞いて、ちょっと安心したのではないか。
しかし、ケータハムが選手権の上位にのし上がってくるにはハードルが相当高い。フェルナンデスの活動資金引き締め以外にも、優秀な人材の不足という現実的な理由もある。かつてマシンデザインを担当したマイク・ガスコインは今もケータハム・グループ内にいるが、F1チームからは離れている。F1で選手権上位を狙うにはガスコインのような優秀な人材が必要だが、現在のチーム代表アブテブールには、優秀な人材を集めるためのコネクションもなければ見る目もなさそうだ。小林のチームメイトはこれまで名前も知らなかったエリクソンだとか……。こうした環境を考えれば、小林はかなり苦労をすることになりそうだ。ただ、ケータハムの“ガチンコ・ライバル”であるマルシャのドライバーが経験の少ない若手ばかりなら、レース巧者の小林が頑張れば選手権10位は行けそう。ケータハムにとればそれが最も重要な点だ。
ただ、小林可夢偉とケータハムはまだ最終的な契約を結ぶまでには至っていないという。後は両者のサインだけだろうが、それがいつ為されるのか私は知る由もない。小林はツイッターで、暫くしたら発表しますと呟いていたが、出し惜しみせずにさっさとサインしてパッと公表すればスッキリと新年を迎えることが出来るのにね。
赤井邦彦(あかいくにひこ):世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。
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