ホンダはふたたびF1をやるのか? 昨年からさまざまな情報が海外、日本問わずインターネットや雑誌で噂が飛び交っているが、ホンダの伊東孝紳社長は、2月8日の時点で「勉強中です」と回答した。ではいったい、ホンダは何を“勉強”しているのだろうか? オートスポーツ本誌では、ホンダ・モータースポーツ部佐藤英夫部長にインタビューし、3月15日号に掲載したが、その一部を以下に抜粋した。
念のため説明しておくと、ホンダ・モータースポーツ部は青山本社にオフィスがあり、ホンダのモータースポーツプログラム全体を統括している。レース用を含めた車両やエンジンの開発を行う本田技術研究所は、実戦へ参戦となった場合には、モータースポーツ部が最終決定した計画に沿ってプログラムを実施することになる。
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──開発技術の量産車へのフィードバックという意味では、2014年から変更されるF1のレギュレーションもそれを強く意識したものになるかと思いますが、これに取り組む意義をどうお考えですか?
佐藤英夫MS部長(以下佐藤):発表会では社長の伊東も「勉強している」と申し上げましたが、“どこまで量産車にフィードバックできる技術なのか”は、勉強不足でまだ分かっていない状態です。ただ、F1、WTCC、スーパーGT、スーパーフォーミュラなど多くのカテゴリーでエンジンはダウンサイジング化される流れになってきており、さらにターボ化・直噴化となるという意味では、技術の相関性がより色濃く出てくるのでは? という考えを持っています。そしてそれらの基本技術や制御の技術、ノウハウなどは、充分に量産車にフィードバックできる可能性があると思っています。
──WTCC世界ツーリングカー選手権での1.6リッターターボと、スーパーフォーミュラ/スーパーGTでの2リッターターボなどは、開発という意味では関連性は強いですよね。
佐藤:そうだと思います。
──とすれば、F1のエンジンもかなり近いところにあるように感じますが。
佐藤:そこは勉強ですね。「V6の1.6リッター直噴ターボ」というのは、直噴をのぞけば経験もあり、KERSというのも第3期に実戦投入はしなかったものの、開発はしていたので分かりますが、排熱回生や燃料の流量規制などを含めた時に、どこまで他のレースエンジンとの関連性があるのか、さらには量産へのフィードバックができるのかというのは、まだ理解していないですね。
──「勉強している」というのは、言い換えればスタディというか、R&Dにすでに着手しているとも捉えることができますが、栃木技術研究所ではすでにそのあたりが進んでいるのでしょうか?
佐藤:特定のF1エンジンに関して、というよりも、もっと広い意味においての勉強です。回生システムであったり、過給器であったり、直噴であったりと、そういう個々の勉強はずっとやってきていますから。その中で、2014年レギュレーションがどういう位置づけにあるのか、我々がこれまで取り組んできた技術に関連があるのか、どれぐらいのチャレンジとなるのかといった部分を含めて勉強していると考えて頂いた方がいいですね。
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文面とおりに受け取れば、基礎研究段階でいろいろやっていて、その中にはF1の新規定に関連した物もある、ということでしかないが、具体的な事象にまで言及してくれたことで、準備が進んでいるのではないかという期待を抱かせる内容と編集部では受け止めた。
今年、ホンダが力を入れるWTCCは直噴ターボエンジン技術がカギであり、スーパーGT300クラスのCR-Z GTはレーシングハイブリットの開発がテーマになっている。その両方に関連しているのが、2014年のF1技術規則という見方もできる。
ただ、予算や参戦意義をどう見出すかなどなど、参戦するまでにクリアしなければならない課題も山積しているという印象も受けた。『面白いから、やる』というホンダの企業CMのキャッチコピーこそ、実は参戦の意思表明、とみるのは妄想が過ぎるだろうか? なお、オートスポーツでは3月29日発売の4月12日号でホンダのF1参戦に関する特集を予定している。