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F1ニュース

投稿日: 2015.09.16 00:00
更新日: 2018.02.17 10:23

ロータス小松礼雄コラム:雨漏りでまさかのウォーマー故障


 ロータスF1チームで昨年、ロマン・グロージャンを担当していたレースエンジニアの小松礼雄氏。今シーズンはチーフエンジニアに昇格してグロージャン、そしてパストール・マルドナドの2台のマシンでF1を戦います。
 
 ついにベルギーGPで表彰台を獲得したロータス・チームと小松チーフエンジニア。しかし、その後のモンツァへは搬入でひと苦労……さらに夜中の雨で信じられないトラブルが……。現場でエンジニアリングをまとめる小松氏は、どのようにイタリアGPの週末を振り返るのでしょうか。

 F1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラム、第14回目の一部をお届けします。

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小松礼雄コラム 第14回

徹夜続きで組み上げたクルマ
まさかの雨漏りでほぼ全滅したブランケット

 前回のスパでは、今季初の表彰台という凄い結果を出しましたが、月曜にはもう現実に引き戻されました。とう言うのも、クルマや機材が差し押さえをくらって、スパから何も搬出することができなかったんです。お陰で普段はレース後にエンストーンで検査をしないといけない部品の検査もできず、クルマがないのでメカニックは1週間の休暇となりました。やっとゴーサインが出たのが、翌週(モンツァの週)の火曜の夜。ベルギーで週末から待機していたパーツ担当の人が、どうしてもエンストーンに送り返さないといけない最低限のものを急いで仕分けしてバンに載せ、それ以外の9割以上のものはモンツァに直行です。トラッキーが24時間かけて運転してモンツァに着いたのが水曜の夜10時ぐらいでした。

 水曜の夜10時にゼロから搬入を始めるわけですから、それは大変です。トラッキーたちは、一服する間もないまま夜通しでガレージとオフィスの設営です。部品の検査担当の人も朝、メカニックが来るまでに検査を終えなければいけないので徹夜で仕事。この検査はNDT(Non destructive Testing)と言うのですが、サスペンション、車体、ウイングなどが構造的に大丈夫かどうかを確認します。またメカニックたちも普段は2日かけて組み上げるクルマを1日で組まなければいけないので、普段より早く朝6時にホテルを出発。

 僕らエンジニアたちは朝、時間どうりに行ってもまだオフィスのセットアップが終わっていないので、逆に遅めの9時半出勤でした。何もかも通常の段取りではできないので大変です。2台のクルマを組むのに必要な最後の部品は木曜の昼に到着(ベルギーから火曜の夜にイギリスに送って、検査して、必要な部品を交換した物を木曜の朝4時エンストーン発でイタリアに持って来たんです)、2台とも夕飯前にエンジンをかけることができました。その後の作業も順調に進み、なんとかカーフュー(夜間作業禁止時間)前にすべて終了! 走行開始前なのに、すでになにか凄いハードルを乗り越えた感じでした。

 これまで僕がずっとレースの仕事に携わってきて、こんな状態でレースウィークエンドを迎えるのは初めてです。普段なら考えなくていいことを考えないといけないから、実際に僕がやるべき仕事(単純に言えば、クルマのパフォーマンス)をやってる時間が削られます。例えば、機材がどうなるか毎日、状況が変わっていました。毎日、毎時間、ターゲットが変わるのが辛かったですね。最後は、僕らが工場を出てモンツァに行くときに、トラックが今どのくらいの位置にいて、そこからだとこの時間にモンツァに到着するからこうしましょう、というのをチームマネージャーとかチーフメカニックとかと話して決めていました。

 そんな作業、普段はまったく関わらなくていいことなのですけど、その時はそれが一番の問題だったのでしょうがないです。そんな状態でしたので、金曜日までは走行するための本当に最低限の作業しかできませんでした。とにかく、ターゲットはFP1に間に合わせてクルマを作ること。それ以外は二の次。パーツは金曜日走る分はなんとか揃わせましたが、ギヤボックス、フロアのスペアはまったくありませんでした。

 さて本業のクルマの性能の方ですが、スパでは3位に入って、とても良いパフォーマンスだったのですが、モンツァは同じパワーサーキットですがセットアップは異なります。単純に言えば、ダウンフォースのレベルがモンツァの方が断然低い。ダウンフォースが低くてグリップが掛からなくてヘビーブレーキングなので、ブレーキング時にリヤが安定しなくなる。ですので、バランスは安定性のある方向に振らないといけない。ドラッグはなるべく削らないとレースで勝負になりませんが、削りすぎると最終コーナー(パラボリカ)のコーナーリング速度が落ちて、逆に最高速は伸びません。そこら辺も、どこに調度良い妥協点を見つけられるかが鍵です。