ロータスF1チームで昨年、ロマン・グロージャンを担当していたレースエンジニアの小松礼雄氏。今シーズンはチーフエンジニアに昇格してグロージャン、そしてパストール・マルドナドの2台のマシンでF1を戦います。
ついにベルギーGPで表彰台を獲得したロータス・チームと小松チーフエンジニア。しかし、その後のモンツァへは搬入でひと苦労……さらに夜中の雨で信じられないトラブルが……。現場でエンジニアリングをまとめる小松氏は、どのようにイタリアGPの週末を振り返るのでしょうか。
F1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラム、第14回目の一部をお届けします。
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小松礼雄コラム 第14回
徹夜続きで組み上げたクルマ
まさかの雨漏りでほぼ全滅したブランケット
前回のスパでは、今季初の表彰台という凄い結果を出しましたが、月曜にはもう現実に引き戻されました。とう言うのも、クルマや機材が差し押さえをくらって、スパから何も搬出することができなかったんです。お陰で普段はレース後にエンストーンで検査をしないといけない部品の検査もできず、クルマがないのでメカニックは1週間の休暇となりました。やっとゴーサインが出たのが、翌週(モンツァの週)の火曜の夜。ベルギーで週末から待機していたパーツ担当の人が、どうしてもエンストーンに送り返さないといけない最低限のものを急いで仕分けしてバンに載せ、それ以外の9割以上のものはモンツァに直行です。トラッキーが24時間かけて運転してモンツァに着いたのが水曜の夜10時ぐらいでした。
水曜の夜10時にゼロから搬入を始めるわけですから、それは大変です。トラッキーたちは、一服する間もないまま夜通しでガレージとオフィスの設営です。部品の検査担当の人も朝、メカニックが来るまでに検査を終えなければいけないので徹夜で仕事。この検査はNDT(Non destructive Testing)と言うのですが、サスペンション、車体、ウイングなどが構造的に大丈夫かどうかを確認します。またメカニックたちも普段は2日かけて組み上げるクルマを1日で組まなければいけないので、普段より早く朝6時にホテルを出発。
僕らエンジニアたちは朝、時間どうりに行ってもまだオフィスのセットアップが終わっていないので、逆に遅めの9時半出勤でした。何もかも通常の段取りではできないので大変です。2台のクルマを組むのに必要な最後の部品は木曜の昼に到着(ベルギーから火曜の夜にイギリスに送って、検査して、必要な部品を交換した物を木曜の朝4時エンストーン発でイタリアに持って来たんです)、2台とも夕飯前にエンジンをかけることができました。その後の作業も順調に進み、なんとかカーフュー(夜間作業禁止時間)前にすべて終了! 走行開始前なのに、すでになにか凄いハードルを乗り越えた感じでした。
これまで僕がずっとレースの仕事に携わってきて、こんな状態でレースウィークエンドを迎えるのは初めてです。普段なら考えなくていいことを考えないといけないから、実際に僕がやるべき仕事(単純に言えば、クルマのパフォーマンス)をやってる時間が削られます。例えば、機材がどうなるか毎日、状況が変わっていました。毎日、毎時間、ターゲットが変わるのが辛かったですね。最後は、僕らが工場を出てモンツァに行くときに、トラックが今どのくらいの位置にいて、そこからだとこの時間にモンツァに到着するからこうしましょう、というのをチームマネージャーとかチーフメカニックとかと話して決めていました。
そんな作業、普段はまったく関わらなくていいことなのですけど、その時はそれが一番の問題だったのでしょうがないです。そんな状態でしたので、金曜日までは走行するための本当に最低限の作業しかできませんでした。とにかく、ターゲットはFP1に間に合わせてクルマを作ること。それ以外は二の次。パーツは金曜日走る分はなんとか揃わせましたが、ギヤボックス、フロアのスペアはまったくありませんでした。
さて本業のクルマの性能の方ですが、スパでは3位に入って、とても良いパフォーマンスだったのですが、モンツァは同じパワーサーキットですがセットアップは異なります。単純に言えば、ダウンフォースのレベルがモンツァの方が断然低い。ダウンフォースが低くてグリップが掛からなくてヘビーブレーキングなので、ブレーキング時にリヤが安定しなくなる。ですので、バランスは安定性のある方向に振らないといけない。ドラッグはなるべく削らないとレースで勝負になりませんが、削りすぎると最終コーナー(パラボリカ)のコーナーリング速度が落ちて、逆に最高速は伸びません。そこら辺も、どこに調度良い妥協点を見つけられるかが鍵です。
あと、スパとモンツァのタイヤは同じコンパウンドですが、モンツァはスパほど上手くスイッチオン(グリップが作動)しないので難しくなります。スパは中速・高速コーナーがあり、タイヤに熱を入れるのは比較的簡単です。しかし、モンツァは実質、3つしかコーナーがありません、ですから特にフロントに熱を入れるのは大変です。その辺りをセットアップ面で少し変えたりして対応します。モンツァでは、ある程度行けるだろうという見込みはありました。スパでも縁石の乗り方は良かったし中速コーナーも良かった。またモンツァと同じようにシケインと縁石の走り方が重要になるモントリオールもすごく良かった。なので、サーキットレイアウト的にはローダウンフォースのモンツァでも悪くないだろうとは思っていました。
そして金曜からのレースウイークに入ったわけですが、ひとつ、大きな災難に遭ってしまいました。(木曜日の)設営が遅れたことで、ウチのレース・ベース(オフィス)の上には雨避けのカバーがあるのですが、今回はそれをつける時間がありませんでした。外から見ると普通のオフィスの形になっていますが、やはり完璧に防水されているわけではないんです。(設営した人たちは防水になってるから大丈夫だと言っていましたが……)。悪い予感は的中します。オフィスの下にはタイヤがウオーマー(ブランケット)に包まれて全部置かれているのですが、金曜日の夜に大雨が降って雨漏りして、タイヤウオーマーがほとんど故障してししまったのです。最終的には動いているのが4セットしかない状態でした。そして、それが判明したのがFP3の直前でした。
タイヤを温めるには実際に使用する3時間前から逆算してブランケットに入れるのですが、実際には、ブランケットが動いているのか動いていないのか判断がつかないものもあって、時間が経って温まり始めてからショートして故障するものもありました。ですので、もう、タイヤのブランケットに入れる時間と温度が滅茶苦茶な状態です。とりあえず正常に動いていたのが4セットということは、1台につきブランケットが2セットしかないわけで、予選で最低4回新タイヤを使いますが、それにも足りません!
さらにFP3では路面が乾き始めたらみんなプライムタイヤで走り出しましたが、ウチはプライムタイヤで走るのをあきらめて、FP3はオプションタイヤで最後の1回しか走らないと決めました(とにかく、できるだけ予選用のタイヤにブランケットを回すため)。それぐらい、何もない状況でした。
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「タイヤウォーマーを貸してくれた4チーム」
「ピレリの内圧規制に関しての小松エンジニアの見解」……etc.