ロータスF1チームで昨年、ロマン・グロージャンを担当していたレースエンジニアの小松礼雄氏。今シーズンはチーフエンジニアに昇格してグロージャン、そしてパストール・マルドナドの2台のマシンでF1を戦います。
ついにベルギーGPで表彰台を獲得したロータス・チームと小松チーフエンジニア。未曾有の資金不足で厳しい中で得た表彰台に、チームはまさに勝ったような雰囲気。でも、実際の週末は考えられないほど波乱万丈だったようで……。現場でエンジニアリングをまとめる小松氏は、どのようにベルギーの週末を振り返るのでしょうか。
F1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラム、第13回目の一部をお届けします。
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今までで一番嬉しい表彰台
新パーツがなくても戦えるエンストーンの力
ご存じの通り、ベルギーGPでは2013年アメリカGP以来の表彰台となる3位になることができました。現在のチーム事情では表彰台はおろかポイントを獲るのさえ大変なんです。F1で仕事をしてもう10年以上になりますが、今年ほど資金面で苦労した年は覚えがありません。
もともとクルマは開幕戦、いや、開幕前のラウンチの時からほとんど仕様は変わってなく、新しい部品もほとんど投入されていません。しかも夏休み明けにはチームの資金の問題で、ファクトリー、そしてスパにまでも取立屋が来ていました。訴訟もいろいろと起こされているようで、チームスタッフはみんなその事実を知った上で作業を進めていました。そんな中で表彰台を実力で獲れたということが、エンストーンのみんなにとってこの上なく嬉しいことでした。
先ずは2台のクルマをちゃんとした仕様に仕上げてレースウィークエンドを迎えるのが一苦労なんです。アップデートパーツが入るどころか、新品のパーツが来ないので、これまで使ってきたパーツをなんとか使い回すのに四苦八苦しています。
ベルギーではギヤボックスの交換でロマン(グロージャン)がグリッド降格ペナルティを受けましたが、これも元々はスペアパーツ不足が問題です。直接の壊れた原因はパワーユニット側の問題で突然、クルマの電気が落ちたことです。このため、ふたつのギヤが違った場所に同時に入ってしまって、ギヤボック内のいろいろな部品にダメージが出ました。
しかし、通常は金曜日はレース用のギヤボックスを使わないので、レースへの直接的な影響はありません。しかし、ウチはギヤボックスを3個(!)しか持っていないので、毎レース必ず、どちらかのドライバーは金曜からレース用のギヤボックスを使わなければいけないんです。
普通、これはあり得ないです。単純に無駄に距離を重ねてしまうし、今回のようなこともあるのでリスクしかありません。ですから、いつかは起きるだろうと思っていたことが、スパで遂に起きてしまったという感じです。
また、本来ならば壊れたギヤボックスを金曜の夜にすぐにエンストーンのファクトリーに送り返して、万が一のためのスペアとして土曜の夜にはスパに戻すところです。しかし今回は取り立て屋・管財人(?)の件でサーキットから部品などを搬出することを禁止されていました。なので、もし仮に金曜に起こった問題がもう一度土曜に起こっていたら、そのクルマはレースに出られないことになります。
そんな状況で戦っていただけに、レースで(セバスチャン)ベッテルのタイヤがバーストして、3位になったときにはやばかったですね。ロマン(グロージャン)は最終ラップでもう泣いていて、レース直後の無線でもまだ泣いていましたが、僕も残り1周半は泣きそうになりました。
ここまで本当にいろいろあったし、特にスパの週末は酷い状況だったから……。もし何かあってクビになっても「もういいや」という覚悟でやっていました。ですので、あり得ないくらい嬉しかったです。レース後はみんなシャンパンを飲んでいましたがウチにとってはもう、勝ったようなものです。
今までのどの表彰台よりも嬉しかった。自分だけが嬉しいんじゃなくて、本当にこのチームスタッフ、一生懸命やっている人たち全員がこの結果で報われた。それがすごく嬉しくて、もう、それが一番。それだけです。たぶんウチのスタッフもみんな同じ気持ちだったと思いますよ。未だに信じられないくらいです。
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「終盤のベッテルとの戦いで目指した3位獲得の裏側」……etc.