1年のブランクを経て、F1の世界に戻ってきた小林可夢偉。昨年最下位だったケータハムからの参戦だが、日に日にその期待は高まってきている。レース中に何台もオーバーテイクしてみたり、バトンを抑えて表彰台を獲得してみたり……。マシンの性能が勝るドライバーたちを翻弄してきた、そんな歴史が、「ケータハムでも、可夢偉ならやってくれるんじゃないか?」という期待を我々に抱かせる。

 可夢偉はシーズン開幕に向けてどんな印象を持ち、どんな目標を掲げているのか? 開幕戦の地であるメルボルン入り直前、日本に立ち寄った可夢偉を直撃した。

 オフのテストについて可夢偉は、「大変だったけど、最後は良い感じで締めくくれました。出来る限りのことはやったかなと思います」と感想を語ってくれた。

 ケータハムはルノー製パワーユニット(PU)ユーザーの中で、最も多くの周回数をこなした。とはいえ、他のPUユーザーと比べれば決して満足な走り込みができたとは言えず、「ドライブの仕方などは今までのクルマとは違うのですか?」という問いに対して「実際、まだそこまで行けてないんですよね……」と答えるほど。初戦に向け、やるべきことがまだまだ残っている。

 しかし、可夢偉からは現状を悲観する様子は感じ取れなかった。「テストはかなり厳しい状況ですけど、一番重要なのはシーズンエンドに自分たちがどこにいるかということ。諦めず、やれることをやっていってシーズン終わりまでになんとか立て直せれば、一生懸命やった甲斐が出ると思いますよ」。

 では、その“一生懸命やった甲斐”とは何を指すのか? 可夢偉曰く“ポイント獲得”が今季の目標ではないという。

「ポイント獲得とか、そういうことはあんまり考えてないんですよね。ポイントってのは通過点でしかない。(ケータハムグループの会長である)トニー(フェルナンデス)の夢は、このチームがトップチームになることですから」

 フェルナンデスは、「今季可能性を見出せなければ、F1チームを辞める」という意思を持っていると伝えられている。ケータハムF1のスポンサーの多くは、フェルナンデスが関与する企業であり、彼がF1参戦への魅力を感じなくなってしまった時は、チームの終焉を意味する。

 可夢偉に与えられた役割は、チームの今後の可能性を証明するということ。その役割を説明するために可夢偉は、“エイドリアン・ニューエイ”の名を挙げた。もちろん、可夢偉がマシンを設計するわけではない。

「僕がチームを導いていくことが一番重要だと思います。ニューエイが、レッドブルをトップチームに押し上げたように。それが、トニーの理想なんです。だから、チームがちゃんと軌道に乗ることを考えて戦おうと思ってます」

 ニューエイはマーチのF1マシン設計で頭角を現し、ウイリアムズ、マクラーレン、レッドブルでチャンピオンマシンを生み出した。特に“入賞できるかどうか”というポジションを争う存在だったレッドブルを4年連続チャンピオンに押し上げたその手腕は、「ニューエイここにあり」を再認識させる事象だ。勝ち負けできるマシンを手に入れたレッドブルは、チームとしても成長。多くの有能な人材が集まり、トップチームとしての地位を確立した。それもこれも、ニューエイの存在がまずあったからと言えよう。

 ただ前記したとおり、ケータハムは昨年最下位。そのチームをトップチームに育てあげるのは、レッドブルを常勝軍代にのし上げる以上に難しいはず。しかし可夢偉は「(トップチームになるポテンシャルは)あると思います」とさらりと言う。そして「あとは(チームの)調子が良くなって、トニーがどれだけお金を払ってくれるか。予算もF1の勝負の重要な要素のひとつだから。そこは上手くやっていきたいです」と実に現実的な、そしてある意味最も重要な目標も語ってくれている。

 ケータハムの“チームリーダー”として、一昨年までのザウバー時代とも、昨年のWEC時代とも違う新たな役割を任された小林可夢偉。インタビューに応える可夢偉からは、その重責に対する気負いではなく、自信のようなものを感じることができた。おそらく、今シーズンが簡単な戦いになることはないだろう。茨の道かもしれない。そんな状況の中で可夢偉はどんなレースをし、どんな結果を見せてくれるのか? じっくりと見せてもらおう。

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