1月31日、いよいよ小林可夢偉がF1マシンをドライブするヘレス最終日は雨の朝を迎えた。
ルノーのパワートレイン周りにトラブルが頻発した影響で、前日までの3日間で僅か22周しかこなすことが出来なかったケータハムCT05だが、この日は午前9時にほぼ全ての準備が整っていた。可夢偉は真っ白なレーシングスーツに身を包み、目新しいデザインのヘルメットを被ってコクピットに乗り込む。午前9時23分、小雨が降り続ける中でついに可夢偉はコースへと飛び出していった。
インストレーションチェックを無事に終え、10分後に可夢偉は再びコースへ。バッテリーにマイナートラブルが発生する場面もあったが、そこからは何度もコースインを繰り返し、5周、8周、7周、5周、5周と小刻みに周回数を重ねていった。
実際にはパワーユニットのシステムにトラブルが起きており、「エンジン自体もERS(エネルギー回生システム)も全然フルパワーで走れるような状態ではない」なかでの走行。ソフトウェアのトラブルによる激しい振動もあり、「バイブレーションが酷くて酔ってしまいそうなくらい」だったという。全開走行にはほど遠く、「ドライバーとしてももうホントに転がしているだけっていう状態です。でもルノーのデータ収集のために走らなきゃいけないから」といい、おそらく500馬力程度での走行だったのではないかと可夢偉は言う。
午後1時8分までに45周を走破して短いランチブレイクをとるまで、可夢偉は一度たりともコクピットから降りることはなかった。可夢偉は「チームが降ろさしてくれへんのやもん(苦笑)」と言うが、それだけこの限られた時間を最大限に使いたいという気持ちがチームも可夢偉も強かったのだ。
30分の休憩を挟んでドライ路面で走行を再開したが、そこから9周を走ったところでさらにパワーユニットに別のトラブルが発生。これ以上の走行は不可能と判断し、ここでテストを切り上げることとなった。
「やることが山のようにあるし、こら大変やわ」
可夢偉はそう言って苦笑いするが、他のルノーユーザーがほとんど走行できていないだけに、ここでこういう形であっても走り込んでおけたことの意味は大きい。
心機一転、これが最後のチャンスという不退転の気持ちで臨む可夢偉の2014年が、こうして始まった。