トヨタ・マークXが、10月24〜25日に行われたスーパー耐久最終戦でレースデビューを果たした。埼玉トヨペットGreenBraveがエントラントとなり、脇阪寿一と薫一が兄弟でドライブすることは既報の通りで、大いに話題を集めた。寿一と薫一の駆る68号車埼玉トヨペットGB マークX G'sは、最終的にST-3クラスで5位という結果を残したものの、これは果たして納得のいく成果だったのだろうか?
正直に言って、スーパー耐久を全戦取材する身にとってもトヨタ・マークX G’s(GRX133)でのエントリーは寝耳に水だった。ただ、埼玉トヨペットGreenBraveからトヨタ86でST-4クラスを戦う番場琢によれば、「実は開幕の頃からマークXでやろうという話が進んでいて。ええ、極秘プロジェクトだったものですから、グフフ(笑)」とのこと。水面下では、着実にプロジェクトは進行していたようだ。
その仕掛人のひとりが寿一。「トヨペット店のフラッグシップカーであるマークXを使うのは自然な流れだと思うし、僕はプロモーションにつながるレースをしたいとずっと言い続けてきたんです」と話す。プロドライバーからの提案だけに、いきなりの好結果をどうしても期待してしまうが、寿一は「いきなり作っていきなり勝てるほど、S耐と言えども甘くはないでしょうし、トラブルもきっといっぱい出るでしょう。それもひとつの流れとして、来年につながるようなレース、それのお手伝いができればいいのかな、と思っています」と語っていた。
実際のところ、シェイクダウンとなった金曜日の専有走行でのベストタイムは2分22秒243。同クラスのトップとは4秒ほどの開きがあった。そのあたり、同じ3500cc・V6の2GRエンジンを積んだレクサスGS350で2013年に戴冠した経験をもつ薫一にはどう映っていたのだろうか。
「大阪トヨペットさん(OTG MOTOR SPORTS)と、埼玉トヨペットさんは協力関係にあるので、いろいろ情報交換はやられていて、ある程度のベース車としては面白いことになっていると思います。ただ、まだ作りたてで、今日(金曜日)初めて走らせただけに、これからといった印象ですね。S耐はノーマルベースでやるので、足などの動きをもともとの個性を生かしてやらないといけない。作ってすぐはどうして物足りないというか……。ただ、走らせ方も、作っていく方向性も、何かうまくはまらせていくと、我々がGSを走らせた時のよう感じになる。そのあたりの部分において、いい素材になるのではないかと思います」と薫一は語る。
実際、手を加えたなり、特性を理解したなり、さらにコンディションの変化なりに、その後のセッションでは着実にタイムアップ。土曜日の予選では寿一が2分21秒067を、薫一が20秒976をマークする。また、苦戦を強いられている理由として、油温が十分に下がらないこともあったが、予選終了後にはオイルクーラーを追加して対処。これが決勝レースでは大いに威力を発揮することとなった。
スタートを担当したのは薫一で、まずはクラス8番手をキープ。前後を走るのは四駆のST-2車両とあって特性の違いに苦労もしていただろうが、コンスタントにラップを刻んでいた。その後、エンジン不調を訴える車両があり、12周目には7番手にポジションアップ。さらに序盤に相次いだSCランをうまく使って一時は5番手まで順位を上げた。薫一から寿一に代わる間にひとつポジションを下げるも、中盤にまた1台トラブル車両がデたことで5番手に返り咲くことに。そして、ポジションを最後までキープし続けてチェッカーを受けた。寿一はレース後、こう語っている。
「できてすぐのクルマなので、細かいトラブルはいくつか出ました。ただ、完走はできましたし、致命的なトラブルは出なかったので、クルマのポテンシャルの高さは感じました。正直、まだまだ思いきりは走れてはいないし、スピード的には足りませんでしたが、安定感はすごく感じられた。本当のところ、作って乗ったところでポテンシャルがどれだけあるか分からないし、仮に壊れて怪我をしたらスーパーGTにも響きますし、そういうリスクもあったのですが、ディーラーチームがレースをして、お客さんに見てもらうことでマーケティングにつなげようという心意気に感動したというか、感謝したいから乗せてもらったんですよ。そういう中で完走できたことは、ものすごく夢のあること。これはマークXのデビューとして、最高のレースだったと思います」
ちなみに、このマークXの本格的な参戦は来年から。オフの間にセットアップが入念に進められるのは間違いないが、脇阪兄弟が乗るかどうかは「全然。まだ何にも」(寿一)とのこと。とは言え、ふたりの勇姿をまた見たいというファンの声が多かったことにも、最後に触れておこう。