ENEOSスーパー耐久シリーズ2026 Empowered by BRIDGESTONEのST-5Fクラスで唯一無二の存在感を放っている291号車AutoLabo Racing 素ヤリス。大阪府茨木市にショップを構えるAutoLabo(オートラボ)で自社製作したマシンについて、代表でもあり数々のマシンで王座を獲得してきた國松宏二氏に、クルマづくりのこだわりを聞いた。
■独自思想で考え抜かれたボディはスーパー耐久屈指の硬さ
過去にはスーパーGTやル・マン24時間などでもメカニックとして活躍し、スーパー耐久でもクラスを問わず数々のマシンで王者を獲得してきた國松代表。自身が設立したオートラボでは、スポーツカーカスタムやパーツ、中古車販売、車検整備、オリジナルデモカー製作などを手掛ける。
スーパー耐久で唯一となるトヨタ・ヤリスを選んだ理由について「GRヤリスはすでに皆さんが挑戦しているクルマで、後からやっても勝った・負けたの楽しみしか残らないんですよね。僕はみんなと一緒に“その他大勢”でやることはあまり考え方として好きではなくて(苦笑)。レースは好きなので勝った・負けたも当然ありますけど、スーパー耐久は“クルマを作ることができるカテゴリー”だからこそ、誰も挑戦していないことで一番苦労したいという思いもありました。そこでクルマを探していたらヤリスがあったんです」と國松代表は語る。
オートラボが製作するマシンの最大の特徴は、その圧倒的なボディ剛性にあると國松代表は開口一番に発した。自らを「こだわりがすごく強いタイプ」と称し、自身ですべてを設計するという思想は極めて独創的だ。
「ウチのボディはスーパー耐久ST-1〜5クラスに参戦するクルマのなかでも、おそらく1番目か2番目に硬いボデイだと思っています。その硬さを足回りの動きに転化できるように考え込んで作っていて、ロールケージやフレームの落とし方などは(サスペンションの)バネがどんどんと柔らかくなり、ノーズダイブしてもクルマが綺麗に動いて走らせられるようなボディを作っています」
「特に僕は、ロールケージはパイプフレームだと思っています。フォーミュラカーのフレームに近いイメージのものを箱の中に入れているかたちで、ダンパーの近くにロールケージが落とし込まれていて、それをダンパーの動きも抑制できるためのロールケージという風に考えているので、そのあたりが他車さんと少し違います」
「ただ、もし横転したときにルール上ではJAFのJ項(国際競技車両規則)の中には、命さえ守ることができればレベルのものが多いことも事実です。ロールケージは命を守るものなので当然かもしれませんけど、僕はその中でも、足回りがしっかりと綺麗に動くボディを作っています」
この信念はオートラボの素ヤリスのみならず、ST-4クラスに投入されているスイフトスポーツなどにも同様の思想が貫かれていると國松代表。セッティング面では、ボディの良さを活かして足まわりを「ピーキー」にすることでコーナリング特化マシンに仕上げ、ライバルたちと争っているという。
■GT3、GT4車両での経験をフィードバックしたユニット交換思想
また、國松代表は過去にもさまざまなレーシングカーに触れてきたこともあり、素ヤリスのメンテナンス性には耐久レースで強力な武器になる“アッセンブル交換”の手法が取り入れられている。
「昨日(第1戦もてぎの木曜日)もエンジンが壊れてしまい載せ換えをしているんですけど、いざ壊れたときに少しでも早くコースに戻せるように、ユニットでガサッと変えられるバックアップ部品を用意したり、ブレーキ自体をアッセンブルで変えやすいようにすることを考えてクルマを作っています」
「僕はGT3やGT4車両もよく触っていて、本物のレーシングカーとして販売されているクルマの良さも当然分かっているので、そこに寄せていく。いろいろなカテゴリーの車両のなかで『いいな、真似したいな』という部分をどんどん取り入れているので、外から見たら同じハコ車ツーリングカーなんですけど、中身は結構すごいことをいっぱいやっているクルマですね」
その素ヤリスのポテンシャルとしては「コーナリング性能や中速域までであれば、ST-5Fクラスでもかなりイケている」と國松代表は言うが、一方でエンジンには手を入れられる要素があまりなく、ワンメイクレース用エンジンの精密組みレベルのみという現状に苦労している様子。
「唯一の3気筒エンジンということもあってトップエンドが伸びず、最高速だと富士スピードウェイではストレートで10km/hくらい負けています。僕もいろいろと開発をしたり、STMOさんに特認申請をしたのですが、勝てるレベルにいこうとすると相当な改造車両になってしまうので、なかなか特認が許されず……」
■勝ち負け以上に重要な現在の素ヤリスの役割
そう語る國松代表だが、現在このプロジェクトには勝利を求めること以上に大きな役割が生まれつつあるという。それは、ヤリスで争われるワンメイクレース『ヤリスカップ』を戦うドライバーたちの次なる目標になることだ。
「ワンメイクレーサーたちのなかに『次は素ヤリスに乗りたい』と言ってくれる人が実際にいます。ワンメイクレースからスーパー耐久にステップアップするチーム、マシンとして認知され始めています。そういった意味では、マシンが速くなくても立ち位置としては存続できる可能性があると思っています。速く走るためにクルマが壊れるのだったら、壊れないことに目標を変えて、勝った負けたはそこまで重視していないのが今の正直なところです」
実際に今までもヤリスワンメイクレーサーをスーパー耐久にデビューさせたオートラボ。彼らの成長を見届けてきた國松代表は「ウチを経験したことで一皮めくれて、お互いが成長できるので、すごく良い状況のレースができている」と感慨深い様子。そして、スーパー耐久ならではの魅力について國松代表は次のように述べた。
「いろいろな車種が走行しているなかで、単に勝った負けただけではなく『このクルマはどのように生まれてきたのだろうか』『スーパー耐久のマシンはこんな改造をしているんだ』というようなクルマづくりの裏側なども見て、その思いで応援してもらえたら、よりレースが面白くなるのではないかなと思います」
オートラボでは素ヤリスに装着されているオリジナルエアロパーツも車検適合品として販売されているが、スーパー耐久での活躍を見たヤリスユーザーたちが購入することも徐々に増えているという。メカニックとして活躍する傍ら、自身のオートラボを率いて新規車種の熟成に心血を注ぐ國松代表。素ヤリスはその生き様を表しているのかもしれない。



