2014年のF3マカオGP。F1を目指す世界中の若手が集まるこの激戦のレースで、キラリと光る存在感を示した日本人ドライバーがいた。金丸悠、20歳。日本の四輪界ではあまりその名を知られていなかったドライバーだが、F1ドライバーを目指し13歳で単身渡欧。2011年、17歳の時にカートの世界選手権で日本人初優勝を成し遂げた金丸悠。彼は今もなお、ヨーロッパに拠点を置きながらF1への階段を一歩ずつのぼり続けている。
今季、そんな金丸が単身ヨーロッパで戦うドライバーとしての苦労やこぼれ話を中心に、レーシングダイアリーをオートスポーツwebでスタートさせた。金丸のリアルレーシングライフを彼自身の声でお届けするコラム第2回は、先日行われたユーロフォーミュラ・オープン(EFオープン)シルバーストン大会での吉報から。
●シルバーストン大会優勝です。
みなさん、やっと勝てましたよ!
先日のシルバーストン大会、レース1で優勝することができました。公式戦初優勝です。フォーミュラでの優勝は2012年10月のフォーミュラ・ルノー2.0 NECの最終戦以来になります。レースは3番手スタートで1台抜いて、トップとはペースが五分五分くらいだったので、「プレッシャーをかけ続けたらミスをすることはあるだろう」と思いながら攻めていたら、案の定チャンスが巡ってきてトップに。前に出てからは勝つことしか考えてませんでした。
コラムの第1回で「チャンピオンを狙っていきます」なんて宣言したのに、開幕からずっと勝ててなかったので、心底ホッとしました。
今回は、今シーズン僕が参戦しているチームの紹介とヨーロッパのミドルフォーミュラレース事情を少しばかりお伝えしていきます。
●『ユーロフォーミュラ・オープン』って何?
今シーズン、僕は昨年に引き続きエミリオ・デ・ビロタ・モータースポーツからEFオープンに参戦しています。読者の方の中にはEFオープンって何? と思われている方もいらっしゃると思うので、まずはカテゴリーの紹介から。
EFオープンは、2013年まではヨーロッパF3オープンと呼ばれていたカテゴリーで、スペインのプロモーターが主催しています。シャシーはF3の現行規定であるF312を使用しているのですが、エンジンはFIA規定外のものを使用しているので、現在の規則ではF3を名乗ることができず、2014年からシリーズ名称が改名されました。今シーズンは全8ラウンド、スペインを拠点にしながらもシルバーストンやスパ、モンツァなどグランプリサーキットで開催されます。
ドライバーはFルノー2.0や英国Fルノー2.0、旧イギリスF3、フォーミュラ・アバルトなど、多種多様なところからステップアップしてきたドライバーが集まり、卒業したドライバーはFIAヨーロピアンF3やGP3にステップアップしていたりします。
実は昨シーズン終了時点では、2015年にヨーロピアンF3へ参戦するための交渉もしていました。ですがヨーロピアンF3はマックス・フェルスタッペン効果と呼べばよいのでしょうか……!? 参戦希望者が増え、参戦費用も高騰しました。フェルスタッペンがF1に上がれたのは親の七光りのおかげだという人もいますが、ヨーロッパではヨーロピアンF3はF1に上がれるような速いドライバーでも楽に勝つことはできないレベルの高いカテゴリーだと評価されたのです。
参戦費用というのはもちろん誰でも一律というわけではなく、実績のある速いドライバーとそうでないドライバーで値段が違います。ですがたとえ実績がなくても、マカオグランプリのように実際に速いトップドライバーがいる中で、良い成績を残しアピールができれば、チームから興味をもたれ、参戦費用が変わる可能性もあります。なので、僕もマカオに参戦しシングルフィニッシュを狙っていたのですが、残念ながらクラッシュに巻き込まれリタイアに終わってしまいました。
そういう状況になり、トップチームに行くには予算が足りず、また中堅チームでは良い成績は見込めないだろうと判断し、僕は引き続きEFオープンに残ることにしたんです。
●今季もエミリオ・デ・ビロタに残った理由
EFオープンに参戦することにあたって、エミリオ・デ・ビロタ以外にもトップチームからのオファーがいくつかありましたが、このチームに残留することに決めました。その理由のひとつに、チームオーナーのエミリオがフォーミュラ・ルノー3.5のチームマネージメントもしており、シーズンの合間を利用してFルノー3.5のテストをできる機会があるということがあります。
両方のカテゴリーのスケジュールの合間でしか日程は組めないので機会は少ないですが、この夏には4〜6日間程度乗ることができる予定です。Fルノー3.5は日本での知名度は低いかもしれませんが、速いけどGP2にいける予算がないようなドライバーたちが集まっていたりもするので、レベルは非常に高いと思います。
特に2013年にはケビン・マグヌッセンが、2014年にはカルロス・サインツJrがチャンピオンを獲得しF1へステップアップしています。チャンピオンがF1に参戦できているカテゴリーはFルノー3.5だけで、GP2は値段が高いだけのカテゴリーという見方もあるんです。ちなみに、GP2はFルノー3.5の2倍の参戦費用が必要だといわれています。
また、Fルノー3.5にはパワステがついていないので、F1やGP2よりも体力的にキツく、なおかつ、レベルが高いドライバーが集まっているので参戦することはかなり良い経験になるカテゴリーだと思います。
Fルノー3.5に乗ることができることが残留理由のひとつですが、なによりも、チームが「僕と一緒にチャンピオンを獲りたい」と言ってくれたことが、チームに残りたいと決めた最大の理由だったりします。
●いっしょにチャンピオンを目指すチームをご紹介
まずは、チームオーナーのエミリオです。
エミリオ・デ・ビロタ・モータースポーツはスペインのマドリードにあるチームで、発足は1990年。EFオープンに参戦しているチームのなかではいちばん歴史があるチームです。ご存知の方も多いかと思いますが、エミリオは元F1ドライバーのエミリオ・デ・ビロタさんの息子であり、2013年にF1テストの事故の後お亡くなりになったマリア・デ・ビロタさんの弟になります。エミリオは現在33歳。チームオーナーとしては若い方ですし、僕とも大きくは歳が離れているわけではないので、友だちみたいな感覚で接してくれます。どれだけ疲れていても笑顔を絶やさず、調子が悪くても人に当たることは絶対にない素敵な人です。
続いて、彼はシーズン僕のエンジニアを担当してくれているセルジです。
昨年の最終戦の時に違うドライバーのエンジニアをしていたのですが、腕が良さそうと思い、僕が彼に担当してほしいと志願しました。ちなみに今年はFルノー3.5ではロベルト・メリのエンジニアも担当しています。
セルジが作るセットアップや、僕へのアドバイスなどはかなり的確だと思っています。僕の意見もちゃんと聞き入れてくれて、もしセットアップの方向性で僕とセルジが違った場合、話し合って最終的にはどちらも納得し共感できるマシンを作ってくれる非常に仕事のしやすい人物です。
チームメイトのホセ-マヌエル・ビラルタです。
彼はフォーミュラ1年目で、去年までカートに乗っていました。年齢はたしか18歳(笑)。メキシコ人特有の陽気さと優しさを持ちあわせています。もともとはプロのサッカー選手を目指していたらしいのですが、ケガで辞めざるを得なくなってしまったそうです。たまにサーキットで一緒にサッカーをするのですが、やっぱり上手いですね。EFオープンでいちばん仲の良いドライバーです。
もうひとりのチームメイトにマイケル・ドルベッカーがいます。彼はフォーミュラ3〜4年目らしいのですが、去年まで何を乗っていたのか不明です(笑)。ホセと同じくメキシコ人の24歳。年齢が上ということもあり落ち着いていますが、やっぱりノリは良いし陽気で優しいですね。マイケルの写真も載せたかったのですが、彼はシルバーストンが欠場だったので、写真を撮れませんでした。
そして、これが今回優勝した時に撮ったスタッフとの集合写真です。
彼らと一緒に、引き続きチャンピオンを目指していきます! 次のレースまで3週間と少し間があいてしまいますが、まだまだ改善できる部分を探し出して、次のラウンドも今回のようなレースができればと思っています。その前に、このコラムでお会いできるように第3回も書いていきますね。引き続き応援よろしくお願いします!