あるチームのデータによれば、昨年モナコの全開率は23%だった。昨年19戦の平均が56%だったから、モナコで全開にしている割合は他のサーキットの半分にも満たないことになる。つまり、それだけパワーユニットに対する負荷は小さい。したがってモナコGPに未使用のパワーユニットを投入してきたチームは、木曜日の時点ではいなかった。
正確には、6つのコンポーネントの中でエナジーストア(ES)とコントロール・エレクトロニクス(CE)を新たに投入してきたところが4チーム(4台)あるが、ESとCEは負荷がかかる部分ではないので、トークンを使用した改良型パワーユニットの登場は第7戦カナダGP以降となる見込みだ。
日本のファンが最も気になるのは、いつホンダがトークンを使用したアップデート・バージョンを投入するかということだろう。早ければスペインGP後のテストで試し、カナダGPからと予想されていたが、スペインGP後のテストで、どうやらホンダは新バージョンのパワーユニットを試さなかったようだ。
いつ新バージョンのパワーユニットをテストし、どこで実戦投入するについて、ホンダの新井総責任者は「他チームとの駆け引きもあるので言えない」と沈黙を貫いている。
しかしヒントとなる言葉は、いくつか発している。ひとつは海外メディアで報道された「ヨーロッパラウンド中盤までに目標を達成したい」というコメントには、誤った解釈があると言ったことだ。新井氏によれば「(トークンを使用せずとも)日々開発を続けて、1戦ごとにパワーユニットを進化させたい」ということは語ったが、「表彰台」や「優勝」を明言したことはないという。さらに、こう続けた。
「トークンの使用にあたっては今年だけでなく、2016年や2017年のことも考えなくてはならないので、そこらへんをよく考えた上で決定したい」
焦ってトークンを使用した改良型パワーユニットを投入するよりも、限られた9つのトークンをパワーユニットのどの部分に使用するのが効果的か、現時点では熟考している段階ではないかと思われる。では、どの部分に使用する可能性が高いのか? 新井総責任者が今シーズンずっと漏らしてきた言葉がある。それは「パワーを上げたい」だ。それにはエンジン本体(ICE)、MGU-H、MGU-Kの3つが考えられるが、開幕してから常々「もう少し燃焼効率を高めたい」と語っていたこと、トークン使用には2年後まで見据えていることを考えると、ホンダがトークンを使用して改良したい部分はエンジン本体である可能性が高い。
エンジン本体を改良するためのトークン数は3。ただし、それにクランクシャフト、ピストン、コンロッドなどは含まれず、それらを改良するには各2つずつトークンが必要となる。また一度トークンを使用したものをグランプリに投入すれば、その改良型パワーユニットが不発に終わってもトークンを取り戻すことはできないため、ぶっつけ本番で投入することは考えにくい。
そう考えると、ホンダがスペインのテストで新仕様を試していなかったとしたら、次にトークンを使用した改良型パワーユニットをテストできるのは、6月下旬のオーストリア・テストとなる。その場合、早くても実戦投入は第9戦イギリスGP。あるいはテスト結果を踏まえて、8月の夏休み期間に改良を加えて、第11戦ベルギーGPから投入してくる可能性もある。
もうひとつ、ホンダが新バージョンのパワーユニットをいまだ実戦投入しない理由がある。すでにホンダはエンジン本体を3基使用している。つまりトークンを使用できるのは年間4基の中では、あと1基しかない。仮にイギリスGPで新バージョンを投入すると、パワーユニットの負荷が大きいベルギーGP、イタリアGP、そしてホンダにとって母国グランプリとなる日本GPの3ラウンドを、どのようにやりくりするのか難しくなる。
以上を考えると、現時点でホンダがトークンを使用した新バージョンを投入してくるタイミングは、第11戦ベルギーGPが有力ではないだろうか。