18日、決勝レース1/2が行われた全日本選手権スーパーフォーミュラ第2戦富士。今季、トヨタエンジン勢に対しタイムや成績の面で苦境に立たされていたホンダエンジン勢だが、タイムとしては第1戦鈴鹿よりも接近。決勝レース2でも山本尚貴(TEAM無限)がトヨタ勢に追随する活躍をみせ、5位に入賞した。では実際にその差はどう縮まったのだろうか。
今季、スーパーフォーミュラではニューマシンSF14を導入。トヨタ、ホンダの2社が2リッター直4直噴ターボエンジンを導入したが、この新規定エンジンは限られた燃料の中でいかにパワーを出すかが勝負であり、その点でスーパーGT500クラスのニッサンエンジンとともに、各メーカーのレースでの直噴ターボ技術が問われるエンジンと言える。
4月の第1戦鈴鹿では、そんな両社のエンジン差が成績の面で如実に表れた。予選では上位7台をトヨタ勢が占め、決勝でも最上位はビタントニオ・リウッツィ(HP REAL RACING)の8位どまり。世界屈指の高速コースが舞台となる第2戦富士は、ホンダエンジン勢がいかに巻き返すかが注目のポイントだった。
●相次ぐトラブルに、王者の怒り
第2戦に向け、ホンダの佐伯昌浩開発責任者は「開幕戦でまったく新しいエンジンを投入した結果、制御系で改良すべき点も分かってきたので、今回はマッピングを全面的に入れ替えました」とレギュレーションで大きな改良ができないエンジンの中でも、できる部分に改良を施してきたという。しかし、タイム面ではトヨタ勢に近づいて来たものの、金曜専有走行では中嶋大祐(NAKAJIMA RACING)のマシンに火災が発生したほか、タービンを中心にトラブルが多発した。
迎えた日曜のレース1でも、塚越広大(HP REAL RACING)や小暮卓史(NAKAJIMA RACING)などにトラブル発生。スタート後の1コーナーで接触しながら追い上げた山本尚貴(TEAM無限)は野尻智紀(DOCOMO DANDELION)と争っていたが、ほぼ同時に両車にトラブルが起き、マシンを止めることに。ピットに戻った2013年王者の山本はグローブを投げつけ、やり場のない怒りをぶつけた。
この件について山本に聞くと、「テレビに映っているとは思いませんでした(苦笑)。レースペース自体はあまり良くなかったんですが、終盤エンジン系のトラブルで離脱しなければならなくなって。今週末は金曜の走行でもエンジンが壊れて載せ替えがあって、他のクルマでもエンジン系のトラブルがあって、正直レースにならないところがあったんです。信頼性がなければレースになりませんから」という。
「ドライバーとして僕の中ではそういう姿をみんなにみせてはいけないと思っていたんですが、あまりにフラストレーションが溜まってしまって。モノに当たってはいけないんですが気持ちが出てしまって。お見苦しいところをみせてしまいました」
続くレース2では、「チームがクルマを一生懸命直してくれて、阿部さん(阿部和也エンジニア)が頑張っていいセッティングをみつけてくれて。レース2はペースがすごく良くなりました」という山本と、ピットでの「エンジンストールという自分のミスで台無しにしてしまったのが悔やまれます」という野尻の2台が素晴らしいペースを披露。さらに塚越広大(HP REAL RACING)もトヨタ勢を追う活躍をみせた。
●まだ存在する、トヨタエンジンとの差
では、ホンダエンジンとトヨタエンジンの差は第2戦で詰まったのか。佐伯責任者は「ピークパワーの点では目標値に近づいてきましたが、さらにマッピングを見直すとともに、予選や決勝の戦い方を見直していく中で、上位争いに絡んでいけるように努力していきます」と解析の結果を語ったが、実際にコースで戦うドライバーとしては、手応えを感じながらも、まだ不足している部分があるという。
「第1戦に比べればその差は埋まってきていると思います」というのは塚越だ。
「ただ、まだまだ優っている部分があるかというとちょっと分からない。でも、そこはエンジンでも負ける訳にはいかないと思いますし、ホンダさんにも頑張って欲しいと思います。僕たちにできる事は、エンジンが劣っていたとしてもカバーできるようにしたいし、その辺はお互いに協力しながらレベルを上げていきたいと思います」
一方、今回の第2戦でロイック・デュバル(KYGNUS SUNOCO)やナレイン・カーティケヤン(LENOVO TEAM IMPUL)と競り合った山本は、「ストレートは置いていかれます。最終コーナーからコントロールタワーにいくまでで離されますね。でも、次のスタートラインのところでは差が変わらないんです」とストレートでの状況を教えてくれた。
「富士ではギアレシオの関係で、コントロールタワーの下でだいたいリミッターが当たってしまう。そう考えると、最高速はみんなだいたい似たり寄ったりで310km/hちょっとなんです。とすると、最終コーナーからそこまでの到達速度が重要だし、そこまでを計っている数字はない。一概には判断しにくいですね」
では、山本のレース2の好走の要因は何か。それは山本とチーム無限がレース2に向けて詰めたセッティングの賜物と言えるだろう。
「やっぱり登りセクションのセクター3でも(エンジンの)差が効くだろうし、リミッターが当たらない区間では効くと思う。でも、コーナリングとブレーキングでは負けていなくて、詰められるんです。だからナレインにもプレッシャーをかけてミスを誘うことができた」
佐伯責任者も、「ドライバビリティの面ではドライバーの好みと合っている場合もあれば、合っていない場合もあって、今はそれらの調整を行っているところ」とドライバビリティの改善を今後も行っていくとしている。スーパーGTでもそうだが、今後ホンダエンジンの調整が進み、チームが施すセッティングが煮詰まれば、ライバルに追いつくこともできるかもしれない。
●「応援してくれる人のためにも早くいい結果を」
ただ、チームとドライバーがセッティングを煮詰め速さを発揮しても、現状では優勝を争い、チャンピオンを争うためにはまだまだホンダエンジンが要求されるものは多いのかもしれない。山本は、現状のベストを尽くした結果が“5位”だと強調する。
「僕は今年の初めからずっと言っていますけど、常にどんな状況でもホンダの中でも一番じゃなければいけないと思っています。より説得力があるのはトップのドライバーですからね。そういう環境を自分の中でも作らなければいけないし、その点で今年にかける思いはものすごく強い。それにホンダも応えて欲しいという思いがあります」と山本は語る。
「僕ができるのは走って証明すること。でも、それを勘違いして欲しくなくて、ホンダが良くて5位になったわけじゃなくて、みんなの意地が重なって勝ち得た5位だと思うんです。その“5位”という成績をしっかりと受け止めて今後の開発に拍車がかかればいいな、というのが本音です」
「ホンダに文句が言いたい訳ではなくて、現状をみんなで良くしていこう、と伝えたいです。それを伝える僕の手段は走りということです。もちろん現場でもそうだし、開発を頑張ってくれている人たちがいる。でも決して満足できるレベルではないし、もっともっとホンダには頑張ってもらわないと」
2013年にチャンピオンを獲得し、“F1”という目標に向け、今季誰にも文句を言わせない成績を残したい。端から見ても、山本の今季に懸ける意気込みは本当に強い。そんな中で、ホンダ最上位とは言え5位という成績は決して山本が望むものではない。まだシーズンは2戦を終えたところだが、こうしているうちにもライバルたちはポイントを積み重ねているのだ。ドライバーの思い、そして多くのホンダファンの望む高みは、タイムにすれば1秒あるかないかという程度だが、まだまだ先にある。
「ホンダが苦戦していいパフォーマンスがみせられない中でも、ホンダを応援してくれる人がいるし、ピット前で歩いていても声をかけてくれる人が多かった。すごく嬉しかったし、申し訳ない気分になりました」と山本は言う。
「だからこそ、そうやって応援してくれる人のためにも早くいい結果を残したいし、勝った姿をみせたいんです」