5月12日〜13日に富士スピードウェイで行われたスーパーフォーミュラのメーカーテストで装着されたヨコハマタイヤ。現在のスーパーフォーミュラは1997年から、ブリヂストンのワンメイクとなっているが、今後はヨコハマに変わるのか? テスト現場で聞いた声を元に、現状を探った。
富士で行われたテストでは、ヨコハマタイヤがドライタイヤだけでなくウエットタイヤも準備しており、本格的なテスト陣容であることが感じられた。マシン側のセットアップやエンジンの状況などは不明だが、2日目には手元の計測で1分25秒〜27秒ほどのタイムで5周ほどのショートランを繰り返していたほか、初日にはさらなる好タイムを記録していたとも聞こえてくる。
それにしてもテスト現場では一種、不可解な様子も窺えた。トヨタ、ホンダの開発車に装着されたヨコハマタイヤは、トレッド面には識別のためと思われる番号や記号が記されていたものの、サイドウォールにロゴが何もない状態で、真っ黒なまま。さらに、両陣営のピットに出入りするタイヤエンジニアは私服を着用するなど、ヨコハマのイメージを完全に払拭してのテストだったのだ。もちろん、今回のテスト自体、極秘裏に行いたかったという意図は感じられるが、“大人の事情”があるにしても、なぜそこまでの配慮が必要なのか。
ブリヂストンのワンメイクで争われている現在のスーパーフォーミュラだが、近年は2スペックあったコンパウンドが1スペックになり、そして次第にタイヤセット数が減り、今シーズンはついにレースウィークに持ち込める新品タイヤのセット数が3セットへと変更(昨年までは4セット)された。実質、練習走行でニュータイヤが投入できなくなり予選でのギャンブル性が高まるなど、今季はドライバーやエントラントから不満の声も聞こえてきていた。
今季のニュータイヤの問題に関して、スーパーフォーミュラを主催するJRPの白井裕社長が「私としては基本的にはレースのタイヤはAスペック、Bスペックがあって、それをチーム側、ドライバー側がタイヤマネジメントをしながらやっていくというのが理想」と会見でコメント。主催者トップが複雑な胸中を吐露する姿からは、なんとか現状の打開策を探りたいという思いがひしひしと感じられた。その状況を踏まえてのヨコハマタイヤ装着だけに、どうしても今後の新しい展開が気になってしまう。
だが、今回のテストでヨコハマの関係者は、「研究開発の一環」という立場で一貫していた。スーパーフォーミュラへの参戦についても、「何も決まっていない」ことを強調しており、どのような形になるのか、いつからかなど、今後の展開についての詳細はまったく分からなかった。とはいえ、ヨコハマ陣営からは自分たちの技術力を国内最高峰カテゴリーで試してみたい、スーパーフォーミュラで技術力を磨きたいというような声も聞こえた。
また、富士を訪れていたJRPの白井社長も今回のヨコハマ装着について「将来の可能性を探るため」なのだと説明する。JRPの担当者も「シリーズの継続性のため、様々なメーカーとのパイプは常にもっており、ヨコハマもその中の1社」と補足しており、あくまで今回のテストは、いくつかの候補の中のひとつ、というスタンスだった。
現在の状況を踏まえると、コスト面などからタイヤコンペティションになることは考えづらい。いずれにしても、今後、どのメーカーがどのような形でタイヤを供給するのであれ、ファンとしてはドライバーが自らのパフォーマンスを出し切る予選の速さ、そして知力体力を尽くしたレースでの強さといった、最高のドライバーズ・レースが見られることを望んでいる。その志をファンとともに共有してくれるメーカーこそが、国内トップフォーミュラには相応しい。今後の展開について、どのようにファンに発信していくのか。"大人の事情"の膠着状態で、ファンへの視点が不在になるのは避けなければならない。