2ストップ戦略で粘るマルシャのジュール・ビアンキに対して、3ストップ作戦で逆転を狙った小林可夢偉。残り10周を過ぎてその差が1秒以内に縮まったものの、上位を走るマシンが後方から迫ってくるたびに、可夢偉はブルーフラッグに従って進路を譲り、その差が再び広がる。残り2周になってもDRSが使用できる1秒差以内まで縮めることができず、可夢偉のオーバーテイクはもう無理かと思われた。しかし、可夢偉はあきらめていなかった。

「タイヤを必要以上に使いすぎないよう、ビアンキとの差をあえて空けて、一旦タイヤを冷やしておいたんです」

 その言葉どおり、可夢偉は最終ラップにすべてを賭ける。

「ストレートスピードがビアンキよりも遅いことが分かっていたから、ストレートに入る前にしっかりと差を縮めておく必要があった」という可夢偉は、バックストレートに入る前の12~13コーナーで、あるトリックを仕掛ける。

「相手がスムーズに立ち上がらないよう、インから抜くと見せかけたんです」

 12コーナーでインを差されると勘違いしたビアンキは、慌ててラインを閉めた。しかしその時、可夢偉はラインをアウトへ変更。13コーナーをきれいに立ち上がっていった可夢偉は、この日初めてビアンキのスリップストリームに入り、DRSを使って14コーナーでオーバーテイクすることに成功した。

 しかし、可夢偉が追い抜きを行ったファイナルラップの前に、上海インターナショナル・サーキットのオフィシャルが誤ってチェッカーフラッグを振っていたため、可夢偉のオーバーテイクは幻となった。

「チームのみんなは(このレースでマルシャに負けたことに)がっかりしていましたが、僕は別に気にしていません。これが10位争いだったら話は別ですが、コンストラクターズ選手権の順位は何も変わりませんから」

 オフィシャルのミスで骨折れ損となってしまったファイナルラップのオーバーテイク。だが、ビアンキは可夢偉の存在を十分に意識したはず。この経験は、いずれ可夢偉とマルシャ勢が競った時、必ず可夢偉の役に立つこととなるだろう。

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