レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る

ル・マン/WEC ニュース

投稿日: 2021.08.17 18:20

ハイパーカー規定で“戦略”要素が復活。ル・マンの直線でキーとなる“マニュアル・コースト”【中嶋一貴&小林可夢偉インタビュー】

レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る


ル・マン/WEC | ハイパーカー規定で“戦略”要素が復活。ル・マンの直線でキーとなる“マニュアル・コースト”【中嶋一貴&小林可夢偉インタビュー】

 決勝に向けては、これまでとアプローチが異なりそうな部分もある。LMP1ハイブリッド時代は、1スティントに使える燃料量、そして1周に使える燃料エネルギー量が規定されており、たとえば昨年のル・マンでは1スティント11周を厳格に守る必要があった。

 また、規定のエネルギー量を超えないようにするため、各ストレートエンドなどでプログラミングされた“リフト&コースト”(ブレーキングポイントよりも前でアクセルを戻し空走すること。トヨタは“フューエルカット”と呼ぶ)を行なったり、トラフィック処理のためにパワーを一時的に使った際には、直後にフューエルカットを行なって調整することなどが必要だった。

 ところが、LMHでは1周あたりのエネルギー量規定はなく、1スティントの長さにも幅を持たせることができる。これが影響してくるのは、まずはトラフィックの処理だ。今季は下位クラスとのラップタイムが接近したことで「抜きづらくなる」というイメージがあるが、実際にはトラフィック処理は楽になる方向だという。

「自分たちのラップタイムが10秒くらい遅くなるということは、抜くクルマの量(回数)が減るじゃないですか。だから、僕としてはロス(する機会)が減るのかなと考えています。フューエルカットもないので、僕らもブレーキング勝負ができる。そういった意味で、トラフィックに関してはあまり心配していないですね」(可夢偉)

 ただし、自動のフューエルカットは入らなくても、ドライバーが自らリフト&コーストをして燃費を稼ぐ場面は「多々ありそう」(一貴)だという。

 その理由を可夢偉はこう説明する。

「去年はスローゾーンが導入されて燃料が余っていたとしても、11周で絶対にピットに入らなければいけなかった。でも今年は燃料をセーブすればするほど、1スティントの長さを伸ばせるんです」

「となると、燃料を使って速く走った方がいいのか、セーブしてスティントを伸ばしてピット回数を減らした方がいいのか、そこは結構戦略的な要素になる。毎スティント1周違うとしたら、24時間トータルでは1〜2回ピット回数が変わってくる。それはデカいなと、個人的には思ってます」

 他のコースと比べストレートエンドが高速となるサルト・サーキットでは、「ブレーキング直前の多少の燃料カットがラップタイムへ及ぼす影響は、かなり小さい」(一貴)ため、“マニュアル・コースト”によって燃費を稼ぐ耐久レースならではの戦略が、今年はひとつのカギともなりそうだ。

 実際、今季第2戦ポルティマオ8時間レースでは、序盤に分かれたトヨタ2台の燃費戦略が終盤の燃料スプラッシュの有無に影響を及ぼしている。ル・マンでは決勝スタート後、ライバル勢のラップタイムやスティントの長さも見極めながら、その都度最善かつミスの許されない選択をしていくことが重要になりそうだ。

7号車GR010ハイブリッドをドライブする小林可夢偉
7号車GR010ハイブリッドをドライブする小林可夢偉

■「どれだけ準備しても何かが起こり得るのがル・マン」

 第3戦モンツァで2台双方に発生した複数のトラブルについては対策を施してきているが、一方でこのレースの難しさと厳しさはふたりとも身に染みて味わってきていることもあり、レースウイークに向けて決して楽観的な見方はしていない。

「不安じゃないかと言われたら、もちろん不安ではあるんですけど、今回は絶対に起きないように、という取り組みをしてきました。ドライバーの部分でも、何かが起きたときにできるだけ早くリカバーできるようにとか、確実にレースに復帰できるようにというマニュアルを、もう一回作った。レースなので『絶対に起こらない』ということはない。そこも含めて、チームとコミュニケーションをとって対策をしてきています」(可夢偉)

「今年で10回目のル・マンになるんですが、不安がある状態で臨むのは毎年変わりませんし、どれだけ準備しても何かが起こり得るのがル・マンだと思っています。今年は新車ですし、去年までより何かが起こる可能性は高いと思っていますが、できる限りの準備をすること、それしかないと思います」(一貴)

 画面越しのふたりの表情や話し方は、通常のWEC戦でのリモート取材とほとんど変わらず、落ち着いてリラックスしているように見えた。ただ、いつもよりは少しだけ、大一番にかける“熱量”が滲み出ているようにも感じられた。

8号車GR010ハイブリッドをドライブする中嶋一貴
8号車GR010ハイブリッドをドライブする中嶋一貴


関連のニュース

ル・マン/WEC レース結果