ひとりのライダーにつくスタッフの数がMoto2時代とは違う。そしてそのひとりひとりがプロフェッショナルだ。そこでは、中上はライダーというプロフェッショナルに徹することができる。
「当然、そこに応えるべき精密なコメントを残すことができるかどうか、という僕自身の課題もあります。『さらに繊細に(RC213Vを)走らせなければならない』と痛感もしています」
「一方で、プロフェッショナルライダーとしてやるべき仕事をまっとうすることができれば、各分野に特化したプロが自分を支えてくれるのがMotoGPクラスなんです。そこでライダーとして自分が正しくフィードバックできれば、アドバンテージを確実に得ることができます」
中上が正確にRC213Vを把握し適切なコメントをすれば、チームはそれに応えてくれる。それが中上自身にとってライバルに勝つための要素になるというのだ。中上の話から、彼がすでにチームに信頼を寄せていることがわかる。
■理解ある監督と驚くほど助けてくれる先輩
所属チーム、LCRホンダについて中上は「僕がルーキーであることを理解して、全員が気にかけてくれるアットホームなチームです」と語る。
「僕が余計なストレスを感じることなく、走ることに集中することができるような環境づくりを優先してくれるんです。いいチームに入ることができてよかったと思っています。自分は、本当に恵まれていると思いますね」
とはいえ、チーム監督のチェッキネロにはときに、厳しいことを言われることもあるという。チェッキネロは1993年から2003年まで世界選手権125ccクラスに参戦したが、通算7勝を挙げながらもチャンピオンまで到達することができなかった。だからこそ、頂点に立つためには何が必要なのかを、リアルに知っている人物でもある。
「ルーチョさんには『オマエにとって本当に大事なシーズンなんだから、100%以上の実力を発揮するつもりで取り組んでほしい』と、言われました。でも一方で、『これ以上いけない、と自分で壁をつくってほしくない。タカには、絶対に持っているものがある』と」
チームに居心地のよさを感じているとともに、チームメイトのクラッチローとの関係性も良好だという。ワイルドな風貌と愛嬌あるキャラクターで、日本人MotoGPファンの間で親しまれているクラッチローは、中上にとってよき先輩MotoGPライダーという存在になっているようだ。
「チームメイトのクラッチロー選手の存在は、僕にとって非常に大きな助けになっています。常に笑いをとりたい、という方なので、ピットでは僕がイジられる対象になることもありますが……テストでは、ビックリするほど助けてくれたんですよ」
「カル選手は本来、自分のパフォーマンスを上げるだけでよくて僕の成長などまったく考える必要はないのですが、テストでタイミングが合ったときには『後ろについてこい!』と指示してくれたり、逆に僕の後ろについて走りを観察してくれました。そのうえで、本気でアドバイスを言ってくれるんです」
