「2017年11月はバレンシアテストの後に同じスペインのヘレスでプライベートテストを行っていますが、そのときもカル選手は『バレンシアのときよりも全然いい。でもここは直したほうがいい』と心からのアドバイスをくれました。LCRホンダというチーム全体はもちろん、自分はチームメイトにも恵まれていると、改めて感じました」
■超えるべき“壁”はタイム差だけではない
その2017年11月14~15日に行われたバレンシアテストでの中上の成績は、2日間総合で18位。11月22~24日のヘレステストでは、1日目に11位、2日目に12位にとどまった。しかし、トップとのタイム差でみるとバレンシアテストでは約1.8秒差、ヘレステストでは約1.3秒差。ルーキーとしては、充分に期待できる僅差で2017年のテストを終えている。
「その1秒ちょっとに、自分が乗り越えなければならないものが凝縮されているのは、充分承知しています。ひょっとしたら、今はわかっていないとてつもなく大きな壁があるのかもしれません」
“壁”はタイム差だけではない。レースウィークをどう進めるのかという点でも、MotoGPクラスなりの考え方が必要だ。
「MotoGPクラスでは金曜日から始まるセッションの進め方においても、勉強することはたくさんあると感じています。Moto2ではフリー走行でタイムを出すことができなくても、予選でタイムを出せば何とかなる、という考え方が成立しました」
「でもMotoGPクラスの予選はMoto2、3とはまったく異なり、土曜日午前中のFP3までに出したベストタイムによって、最終グリッドを決める予選2回目に進出できるライダー10名が絞られます。そこに進出するため、ルーキーの僕はFP1からタイムアタックするつもりで走らなければならない、と思っています」
FPでは決勝用のタイヤを選択し、そのタイヤに合わせたセッティングを詰めていく作業もある。予選を有利に進めるためのベストタイムを出す走りは、その作業とはまったく異なる場合もある。
「それも含めてのMotoGPクラスの戦いを短期間で理解し、結果を出すことが僕たちルーキーに求められていることだと思っています。ケガなく、常に最高のパフォーマンスを発揮することはもちろん、『コイツはやっぱりMotoGPに上がってくるだけあるな』と思われるようなパフォーマンスを、僕を選んでくれたホンダやチームはもちろん、ファンのみなさんにも見せなければいけません」
「そういうプレッシャーはもちろん、感じています。でも重荷だとは思っていません。MotoGPって、すごく厳しい世界ですよね。トップライダーたちは勝てなくなると、それだけで叩かれてしまいます。それだけ世界中のみなさんが注目し、評価してくださる世界なのです」
中上がやるべきこと、学ぶべきことは多い。当然ながら注目度もMoto2時代とは段違いだろう。求められる成績も承知している。それでも中上の心は一途にMotoGP最高峰クラスの頂点に向かっている。
「僕は小さいころからMotoGPクラスに参戦することを夢見て、挑戦を続けてきました。挫折したこともたくさんあります。でもそこでどんなに辛いことがあっても、MotoGPを走りたい、そこで頂点を極めたい、という目標があったからここまで到達することができました」
「その夢の舞台に立つことができたのですから、迷うことはありません。いや、細かな部分で言うと迷うことは、これから先もたくさんあると思います。でも、そこで自分の気持ちがブレることはありません」
そうきっぱりと言い切った中上の目に“迷い”は見当たらない。常にポジティブな姿勢でありながら冷静に状況を把握している中上。『彼は本当に、MotoGPの頂点を極めるのではないか』……そう思わされるに充分だ。
2018年、中上貴晶はMotoGPライダーとして走り出す。
