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MotoGP ニュース

投稿日: 2018.04.16 18:05
更新日: 2018.06.26 16:10

マルケスとロッシの接触をレーシングライダー視点で解説/ノブ青木の知って得するMotoGP

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MotoGP | マルケスとロッシの接触をレーシングライダー視点で解説/ノブ青木の知って得するMotoGP

 マルケスの立場からすると「予想以上にまわりが遅かった」ということだろう。これはそのまま腕の差であり、マルケスならではの身体能力の高さの成せるワザだ。そして重要なのは、接触は決して故意じゃないということだ。

 バイクレースの場合、他とぶつかることは自分へのリスクも非常に大きい。誰もわざとぶつけてやろうとは思っていない。……いや、過去にはそういった事例もありますが、少なくとも今回のマルケスはわざとじゃない。ただあまりにもまわりが遅くて、自分との速度差をうまくコントロールできなかったのだ。

「そこを何とかするのがトップライダーってものじゃないのか!?」というご意見もおありでしょう。でも、レーシングライダーってのは、「イケる!」と思ったらとりあえず突っ込んでいく生き物なんですよ……。

 そしてバイクって乗り物は、「あーっ、しまった!!」と計算違いに気付いた時には、自分でもどうすることもできない乗り物なんですよ……(ですから公道ライダーの皆さんは、決して計算違いをなさらぬよう)。

 速く走ること、前に出ようとすることを咎めていたら、レースは成り立たない。結果的に他車にぶつかり、転倒させてしまったことは「悪いこと」ではあるから、マルケスが責められるのも分かる。

 でも、必要以上の追及はちょっと違う。他車とのクラッシュにおいては、そこに故意があったかどうかを冷静に見極める必要はあるが、今回のマルケスを見ている限りでは、故意ではなかったとワタシは思う。

ペナルティを受け、猛烈な追い上げを見せたマルク・マルケス
ペナルティを受け、猛烈な追い上げを見せたマルク・マルケス

 接触直後、振り返って「ごめん!」というジェスチャーをしたことや、レース後すぐにロッシのピットに謝りに行ったことは、素直に受け取るべきだろう。

「カメラを引き連れて来るなんて、しょせんパフォーマンスだ」なんてうがった受け止め方もあるようだが、そりゃあマルケスとロッシのクラッシュなんてことになれば、メディアが放っておくはずはありませんよ……。大勢でぞろぞろ行くかたちになったのはマルケスが望んだことではなく、それだけ大きな関心事だったから、ということにすぎない。

 もちろん、マルケスの側にも問題はあった。スタートでのルール違反によるライドスルーペナルティ、アレイシ・エスパルガロを押し出したことによる1ポジションダウンペナルティも致し方ない。

 そして何よりも、それらのドタバタによってマルケスは焦りすぎていた。逃げて行くトップに追いすがりたい気持ち、少しでもポジションを上げたい気持ちは分かるが、他と比べてあれだけ速かったのだから、コーナーのひとつぐらい待ってもよかっただろう。焦っていいことなどひとつもないのだ(ええ、ワタシも経験者です……)。

 だが、マルケスの身体能力の高さは本当にハンパないのだ。彼ひとりだけが、現在のMotoGPマシンの性能を超えた次元にいる。だからこそ2013年のMotoGPデビュー以降マルケスの走りはたびたび問題視された。2015年マレーシアGPではロッシとやり合ったが、ここ1、2年は割とおとなしくしていたと思う。

 まわりに合わせるために彼本来の力を出さず、思いっ切り走らないようにしていた。言ってみれば、鋭すぎるツメを隠していたのだ。でも今回は焦りによって余裕を失い、ツメを隠していられなくなった。その剥き出しの走りの結果が、ロッシとのクラッシュ……。天才すぎるがゆえの災難と言えるだろう。

 ワタシの見立てでは、今回のマルケス vs ロッシはレーシングアクシデントのひとつにすぎない。だから仕方ない……けど、さすがに1レースで3度のペナルティを食らうとは、マルケスを巡ってのトラブルが多すぎた。

 世界的にファンが多いヒーロー・ロッシに対して、マルケスはどうしてもヒール役。アルゼンチンGPではまた多くの人たちを敵に回してしまったのだから、今度何かあれば取り返しのつかない「大炎上」を招きかねない。またしばらくの間、マルケスは鋭すぎるツメを隠して過ごすしかなさそうだ。

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■青木宣篤

青木宣篤
青木宣篤

1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。


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