これはまさに興味深い戦いだった。なぜならマルケスのホンダRC213VとリンスのスズキGSX-RRは完全に異なるバイクだからだ。RC213Vは、フロント部分が浮き上がり、リア部分は沈み込んでしまうバイクのため、マルケスがブレーキングや加速で勝負に出ることができる。そのため、RC213VはMotoGPのほとんどのコースレイアウトに完璧に合うバイクだが、コーナースピードは出ない。

加速の立ち上がりでアドバンテージがあるホンダRC213V
加速の立ち上がりでアドバンテージがあるホンダRC213V

 一方、GSX-RRは古いタイプのバイクであり、コーナー通過中に速度を上げる。それがシルバーストンのような昔ながらのコースと相性がいい理由だ。GSX-RRがシルバーストンで2度目の勝利を挙げたことは偶然ではない。

コーナースピードにアドバンテージがあるスズキGSX-RR
コーナースピードにアドバンテージがあるスズキGSX-RR

 マルケスは決勝レース中、崖っぷちに立たされていた。マルケスはスタートから全開で、タイヤ寿命のことはほとんど考えていなかった。なぜならマルケスは集団を小さくしたかったからだ。そうすれば、最終ラップのドッグファイトでポイントを奪うかもしれない6人のライダーたちに対処しなくてすむ。

 マルケスのRC213Vは、シルバーストンの高速で癖のあるコーナーで振動し、跳ね、苦しんでいた。マルケスのバイクはシルバーストンのようなタイプのコースとは相性が良くないからだ。だがマルケスは引き下がることを拒否した。

チャンピオンシップでライバルのアンドレア・ドヴィツィオーゾがリタイアしてもプッシュし続けたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)
チャンピオンシップでライバルのアンドレア・ドヴィツィオーゾがリタイアしてもプッシュし続けたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)

 多くのライダーは、第12戦まででランキング2番手に58ポイント差をつけていることに安心感を得るだろう。さらにマルケスのサインボードは、タイトル争いのライバルであるアンドレア・ドヴィツィオーゾが、1コーナーの多重クラッシュでリタイアしたことを知らせたのだ。リスクを減らして、安全にポイントを稼ぐようにするものだろう。

 だがマルケスはその方法を知らない。マルケスが唯一知っているのは、スロットルをいかに開けるかということであり、いかに閉じるかということではない。

 イギリスGPではポイント争いと優勝争い以上のものが争われていた。リンスは自身をマルケスへの脅威として位置付けようとしている。バレンティーノ・ロッシやホルヘ・ロレンソ、マーベリック・ビニャーレスが時にそうであるようにだ。

 マルケスはハシゴの最上段に立っている一方で、リンスはそこまで登ろうとしているところだ。バイクレースは無慈悲なゲームだから、トップに立つライダーは誰であれ、後から登ってくるライダーの手を踏みつけるようになる。決勝でリンスはマルケスに打ち勝ち、ふさわしい初勝利を掴んだ。リンスはハシゴにかけた指を次の段にしっかりかけていることだろう。次に何が起きるか興味深いものだ。

【後編へ続く】

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