アルガルベGPでは、ミルがMotoGPクラスで初めて予選でフロントロウを獲得した。しばしば言われているように、スズキの課題のひとつは予選であり、これまで2列目、3列目からスタートして決勝レースで追い上げる展開が多かった。

 ミルは予選後、第14戦サンマリノGP後に行われたミサノテストで投入された、新たなライド・ハイ・デバイスが効果的だったと語っている。フロントロウから臨んだ決勝レースでは1周目に2番手に浮上し、バニャイアを追いかけた。その差は次第に広がっていったが、同時にミルを脅かすライダーもいなかった。ミルは2位でレースを終え、今季6度目の表彰台を獲得した。

 ミルは決勝レース後にライド・ハイ・デバイスについてこう触れている。

「もちろん、(レース中に)ライド・ハイ・デバイスを使ったよ。みんな使っているものだからね。明らかに加速がよくなった。それは確かにひとつのキー・ポイントだった。(デバイスがあれば)加速を得られる場所があるといつもわかっていた。ウイリーを抑えられるからね。僕たちはこのデバイスを改善していかないといけない。今のものはプロトタイプの2代目だ。来年はもっとよくなるはずだ」

■今季初の転倒リタイアに終わったクアルタラロ

 さて、終わってみればバニャイアが制したアルガルベGPとなった一方で、エミリア・ロマーニャGPでチャンピオンを獲得した新王者クアルタラロにとっては“予想外”の週末となったと言えるのではないだろうか。

 初日のフリー走行1回目から土曜日のフリー走行3回目まで、クアルタラロはバニャイアとともにセッションをけん引していた。3回のフリー走行では、このふたりが1番手、2番手を占めていたのだ。金曜日のセッション後には「プレッシャーもなく、初めてほんとに楽しむことができた」とタイトル争いから解放された週末について語っていたのだが……。

 風向きが変わったのは、予選である。クアルタラロはQ2の前半のアタックで記録したタイムが黄旗区間を通過したものだったために取り消され、後半のアタックで記録したタイムは7番手だった。「セッティングが機能したものもあったけれど、僕たちの強みである最終セクターでうまくいかなかった。それにグリップも思ったような感じではなかった。セクターによってよかったり悪かったりしていた。それに、フリー走行4回目でもフィーリングがそんなによくなかった」と、全体としてまとめきれなかったようだ。

 決勝レースではホルヘ・マルティン(プラマック・レーシング)、ヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング)のドゥカティを駆るふたりとの5番手争いとなり、7番手走行中の21周目に5コーナーでスリップダウン。2021年シーズン、初めて転倒リタイアでレースを終えた。

 レース後、取材の中で浮かべていたクアルタラロの声色は明らかに沈んでいた。今季、ここまではっきりと失望の色を浮かべるクアルタラロはあまり見なかったように思う。転倒リタイアで終わったことだけではなく、思うようなレースができなかったことがその背景にあるようだった。

「ドゥカティの後ろで詰まっていて、速く走れなかったんだ。レース全体でね。ペースはあったんだけど。僕は15周もマルティンの後ろを走っていて、彼のラップタイムが1秒以上僕より遅くても、僕はオーバーテイクができなかった」

「ただ、予選で失敗して、僕たちが持っているスピードではかなり遅れをとるとわかっていた。限界で攻め続けていたし、たくさんミスもした。クラッシュではブレーキングが遅すぎたところ、旋回に入ろうとした。だから、どうしてクラッシュしたのかは自分でわかっているんだ。とにかく、こういう難しさがあるってことが残念でならないよ。バイクはすごく乗りやすい。ただ、このスピードではミスは許されないんだ」

「グリッドがよければ優勝争いができたと思うよ。でも予選でミスをすれば、表彰台にも優勝にも『バイバイ』だ」

 つまり、彼自身がしばしば言及してきたように「スピードが足りない」ということだろう。今季はエンジンのアップデートができなかったこともその要因にはある。

「エンジンについてかなり取り組まないといけないと思うよ。そうじゃないと、今後は難しいだろうと思う」

 エミリア・ロマーニャGPとは反対に、バニャイアとは対照的な表情で週末を終えたクアルタラロ。最終戦となるバレンシアGPでは、どのような表情でシーズンを締めくくることになるだろうか。

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