実際に『Model C』に試乗した感想をお伝えしよう。
まず、気軽に移動できる“新たな乗り物”だと感じた。これが一般化する未来を想像すると、携帯電話が“ガラケー”からスマートフォンに移り変わったようなインパクトすらあった。
見た目の第一印象は、非常にコンパクトだということ。方向舵となる前輪と、駆動輪となる後輪のそれぞれがこれまでの車椅子と比べて、とても小ぶりだ。
手元にあるスイッチで電源をON/OFF。音声案内に従って操作すれば良いので、初心者でも扱いやすいだろう。操縦桿となるジョイスティックを前後左右することで発進・後退・回転が可能だ。
操縦は、まるでプレイステーションのようなテレビゲームのコントローラーを操作する感覚に似ていた。
動き出しは、非常にスムーズ。車椅子に乗り慣れているわけではないが、低速モードでも動き出しが素早いと感じた。加速感は、例えるならEVやハイブリッド車に乗ったときのような印象。走行音もほとんどしないため、静粛性も高い。
実際に試乗して、改めて旋回半径の小さいことに驚く。狭い場所でも、スムーズに回転することができた。後ろを振り返ることも、無難にこなせた。
この“超小まわり”には、特殊な形状をした前輪が大きく貢献している。
操縦桿の形状は好みが分かれるだろうが、WHILL社の車椅子はオプションパーツが豊富に用意されているので、好みの仕様を選ぶことができる。
分解も試してみた。シンプルな構造なので、ドライバーなどの工具も不要なため、着脱がしやすい。
性能を維持しつつ、誰もが扱いやすい形状に作り上げられているところに、技術者たちの苦労が垣間見れた。
懸念点は、パーツが重いことだろう。クルマのトランクに積み込む際などには、力が必要だ。打開策としては2人で行うか、スロープがあると良いだろうと感じた。
段差は5cmまで乗り越えられるということだが、欲を言えばもう少し高い段差にも対応できると嬉しい。
今回の試乗は室内に限られたため、残念ながら街中へ出ることは叶わなかった。しかし、今後『Model C』のような車椅子が受け入れられるためには、道路交通インフラの整備、街ゆく人々のサポートなど、車椅子を取り巻く環境の構築が必要不可欠だと、実感した。
なお、そんな社会インフラへの問題提起も含め、WHILL社はさまざまな施設に次世代の車椅子を導入している。
2020年6月8日からは、羽田空港第1ターミナルゲートエリア内に『Model C』が導入されている。専用待機場『WHILL Station』から3〜7番ゲートまでの移動を自動運転でサポートし、利用後は無人運転で待機場へ戻るシステムだ。
これによりキャリーケースを引いた多くの旅行客が行き交う環境での利用ノウハウが蓄積されることが考えられる。
車椅子が快適に共存できる、新たなインフラ環境の整備が進み、街中で『Model C』を頻繁に目にできる日の到来が待ち遠しい。




