それでは、全日本F3は、どのような車両規定に則って戦われてきたのか。それは、F3が国際フォーミュラカテゴリーであるため、FIAの国際モータースポーツ競技規則となる。しかし、実際は国内でHFが存在していなかったときは、日本的な性善説と紳士協定が一番大きな“規則”となっていたのだろう。

 HFが出現する前のシリーズは、とても曖昧な車両規定で運営されていたことが明らかになった。各チームは、この規則の下で莫大な資金を投じてシリーズを戦っていたのだ。

 HFが日本では存在していなかったという状況に直面した際、最初に疑問が浮かんだのは「なぜJAFがHFを有していないのか」ということだ。

 JAFのモータースポーツ組織は国際、国内レギュレーションに従い、公正にモータースポーツが行なわれることを目的とした規則の制定と改定、審査、裁定、そして振興が主たる業務であるため、HFに関してはノータッチの立場。

 ゆえに、JAFの主張は「HFは車両の製造業者であるダラーラと運営団体であるF3協会、ならびに輸入業者が情報を共有することとなっている」というものである。

 HFはダラーラが作成しなければならないものだが、それが日本国内の関係者には渡されてはいなかった。そしてFIAの担当者による対応は、あたかも日本には関係ないと言っているのも同じだった。

 しかし、今回の問題が発覚後、JAF=審査委員会はHFにFIAのロゴが大きく示されていることを重視したようで、それを適用した。結果としては、11号車から36号車に対する抗議、審査、裁定までのプロセスは正しかったのだろう。

 しかし、日本という地理的にも状況的にも異なり、独自性を有するシリーズが展開されていることがまったく考慮されていなかったことに大きな疑問を抱かないではいられない。

 トムスは、第11戦の抗議に対して第12戦までに急きょ、違反と判断されると思われる部品を交換するために、当該パーツを新規に購入。その費用は数百万円にも上った。じつは、抗議対象とはならなかったものの、他のチームでもレギュレーションに抵触する箇所があったらしい。

 そんな状況を受けて、富士での第12戦の終了後に、チームオーナーミーティングが行なわれた。それは、突然起きたHF問題に対し、現状の全日本F3の状況に精査しなおし、コース上以外の無益な争いに終止符を打とうというものだった。

 こうしたF3チームオーナーたちの英断には、敬意を表したい。スポーツである以上、規則に従い、そして統轄団体の裁定には従うのは当然だ。だが、突然降って湧いたHF事件に関係者は慌てふためいた。

 それまで存在すらせず、抗議によってHFを初めて知ったにも関わらず、最終的に36号車のドライバーが失格となった。レース前には車両がレギュレーションに適合しているか事前の車検が行なわれている。それがHFの出現によって、レース後に適合が逆転不適合となっている事実。この点に誰もが疑問を抱くだろう。

 最初の抗議がB‐Maxレーシングから提出された時点で、日本にはHFは存在していなかったのだから、審査委員会は抗議を却下するということだってできたのではないだろうか。そこで全日本F3の独自性を明確にできたはずだ。

 今回の事件は、これまでの国内モータースポーツのシリーズ運営に一石を投じ、大きな波紋を起こした。来シーズンからスタートするスーパーフォーミュラ・ライツは、JAF規定の下で運営される。そのため、今回のような問題は起きないはずだし、関係者も再発しないように最大限の注意を払うだろう。

 JAF MS部は8月8日に全日本F3関係者に対してブルテンを発信。件のHFをホームページ上に掲載した。最初の抗議が提出されてから、じつに約1カ月半が経過している。

 36号車のドライバーである宮田は、第10戦でポールポジションから2位、第11戦ではポールポジションから優勝を果たしたが、抗議、裁定による失格処分を受けて18点(第10戦決勝2位&ファステストラップ+第11戦決勝優勝)を失い、逆にフェネストラズは3点多く得点した。

 これが大きく影響して最終イベントを待たずして、第7大会もてぎでの第18戦の結果により、チャンピオンの栄冠はフェネストラズの頭上に輝いた。

 宮田が2レースで失格処分を受けていなければ、最終イベントである第8大会岡山までタイトル争いはもつれ込んだ。宮田は岡山での第19戦、第20戦は、両レースともにポール・トゥ・ウイン。さらにファステストラップも叩き出して、フルマークのパーフェクトウインを達成している。

 もし、第10、11戦で宮田が差し引き21点を失わず、その後のレース結果も変わらなければ、全日本F3最後のチャンピオンはフェネストラズではなく宮田になっていた。

 19年のシリーズ展開にHF問題は大きな影響をおよぼした。国内、海外のトップカテゴリーへの登龍門として位置づけられるF3のチャンピオンという称号は、若きドライバーにとってはとても大きなものであることは間違いない。規定の曖昧さによってひとりのドライバー人生を狂わすようなことがないことを願う。

 19年の全日本F3の顛末を、関係者は忘れてはならない。

 なお、本誌では、この件に関する事象を一覧でまとめた表、問題の発端となったホモロゲーションフォーム、キャンバープレート(サイドプレート)の写真などを掲載している。

※この記事はオートスポーツ本誌 No.1518(11月1日発売号)を一部加筆・修正を加えたものです。

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