レッドブル:LEC(ルクレール)は42秒台だ。
フェルスタッペン:このペースで追い付いて行っている?
レッドブル:あぁ、彼はストレートラインで40km/h遅い。
燃費セーブも強いられたルクレールのペースは厳しく、フェルスタッペンも背後に迫りつつあった。初優勝どころか初表彰台も手のひらからこぼれ落ちかけていた。
しかし54周目にルノーの2台がコースサイドにストップし、セーフティカー(SC)が入った。ルクレールにとっては天からの恵みだった。
フェラーリ:残り4周。次のVER(フェルスタッペン)は、6.5秒後方。
フェラーリ:ターン1~2で黄旗。ダブルイエローになった。SCだステイアウト。
ルクレール:残りは何周?
フェラーリ:この周を含めて3周。
ルクレール:この次が最終ラップ?
フェラーリ:そうだ。
ルクレール:セーフティカー先導のままでフィニッシュになる?
フェラーリ:まだ分からない。
ルクレール:なぜか周りに比べて僕はかなり遅い。VERが……あぁ、大丈夫、彼がバックオフしてくれた。
フェラーリ:君は必要なことをやっている、全てはOKだ。
ルクレール:燃料は大丈夫?
フェラーリ:あぁ、大丈夫だ。このままチェッカーを受けてくれ。
結果、3位でチェッカードフラッグを受け、ルクレールは自身初の表彰台を獲得した。手にしていたはずの勝利を失ったルクレールに、マシンを降りるや否やハミルトンが駆けよって自身の勝利を祝うよりも先にルクレールに「君ならこれから何度でも勝てる」と最大の賞賛の言葉を贈った。極限の世界で戦うもの同士だからこそ通じ合うものがあったのだ。


しかしルクレールは、すでに前向きに心を切り替えていた。チェッカーを受け、パルクフェルメに戻るまでの間に前を向き、ポジティブな面に目を向け、勝利を奪ったトラブルへの恨み節ではなく、チームへ感謝の言葉を述べた。
ルクレール:あぁ、なんて言って良いか分からないよ、ごめん。なんて残念な結果だろう。本当に素晴らしいレースだったのに。でもこういうこともF1、モータースポーツの常だ。マシンは本当に素晴らしかった。本当にありがとう(イタリア語)。
フェラーリ:君は素晴らしい仕事をしたよ。これからやるべきことをやって、もっと強くなって次の戦いをしよう。
ルクレール:今日の僕らは素晴らしいペースがあった。ポジティブな面に目を向けよう。セーフティカーのおかげで3位表彰台を獲得することができたんだ、こんな幸運なんてめったにあることじゃない。僕らは幸運の星の下にいたはずだ。
フェラーリ:そうだね。ファステストラップも君のものだ。
ルクレール:了解。
初優勝は逃したが、いつでも勝てる力があるということは誰の目にも明らかなほどに証明してみせた。そして、自分の身に降りかかった苦難に心を乱したり怒りを誰かにぶつけるのではなく、そんな状況下でも冷静に前向きに、そして感謝の気持ちを忘れずに戦うことができるというこの上ない強さも披露してみせた。
ただ勝つよりもずっとすごいことを、ルクレールはこのバーレーンGPでやってのけたのだ。