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F1 ニュース

投稿日: 2020.07.30 18:07
更新日: 2020.07.30 18:26

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第5回】スタート前のタイヤ交換が奏功。罰則覚悟も「やるしかないと思った」

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F1 | 【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第5回】スタート前のタイヤ交換が奏功。罰則覚悟も「やるしかないと思った」

 2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニリングディレクター。第3戦ハンガリーGPでは、スタート前にタイヤ交換を行うという戦略をとったが、それが功を奏して今シーズン初入賞を掴み取った。あの判断はどのような意図のもとで行われたのか。そしてなぜレース後にペナルティが科されたのか。小松エンジニアが現場の事情をお届けします。

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2020年F1第3戦ハンガリーGP
#8 ロマン・グロージャン 予選18番手/決勝16位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選16番手/決勝10位

 ハンガリーGPではケビンが10位に入賞し、チームとしても2020年シーズン初入賞となりました。ブレーキトラブルでリタイアした第1戦でもレースペースは去年より良いという感触はあったのですが、今回のレースでそれを証明できてよかったです。

 決勝レースでは、スタート前のフォーメーションラップを終えた段階でロマンとケビンをピットに入れて、それぞれインターミディエイトタイヤとウエットタイヤからミディアムタイヤに交換するという戦略をとりました。この戦略について、順を追って説明したいと思います。

 スタート30分前の時点で、路面状況としてはインターミディエイトタイヤを履くのが最適だったのですが、ケビンはインターミディエイトとフルウエットタイヤの両方を試した結果、どうしてもインターミディエイトに自信が持てなくフルウエットで行きたいと主張しました。

「この状態でフルウェットだと1周で終わりだと思うよ」と伝えましたが、それでも彼は「インターの感触が良くない」と不安な様子でした。そこまで自信を持てないインターミディエイトを無理に履かせてスタートで何か大きな失敗をしても後に響くので、彼の意向を汲んでフルウエットでのスタートを決めました。

 ところがフォーメーションラップの1コーナーの時点で、ケビンから「ドライラインが見えてきているから、完全に間違ったタイヤを履いた」と無線が入りました。僕はこの時点でフォーメーションラップ後にタイヤを変えるかどうかを考え始めたのですが、ファクトリーからレースをサポートしているストラテジストも「スタート前にピットに入れたほうがいいんじゃないか」と言ったのです。

 その後8コーナーを通過したロマンも「かなり早い段階でドライタイヤに交換できそうだ」とコメント。ロマンはインターミディエイトからドライに履き替えるような局面だとかなり慎重なタイプなのですが、そのロマンがこのように判断したということで、僕もドライでいけそうだなと思いました。

 ピットウォールで無線を聞きつつオンボード映像を見ながら、後ろを振り返ってガレージの様子を確認したのですが、まだメカニックがいない空の状態。ウチは予選順位が16番手、18番手とグリッド後方だったので、メカニックたちはまだ遠くから走ってガレージに戻っているところでした。スタート前にタイヤを変えると決めても、メカニックが間に合うかどうかわからなかったのですが、やるしかないと思い、「2台ともドライに変える」と伝えました。

 本来ならば、インターミディエイトからドライタイヤに変えるときは一番柔らかいタイヤを履くのですが、フリー走行1回目にソフトタイヤを履いたほかのドライバーたちのパフォーマンスが良くなくて、フリー走行3回目に自分たちも良い感触を得られなかったので、最初からレースではミディアムを履くと決めていました。

 そもそもどうしてフォーメーションラップ後にタイヤ交換をしたのかというと、たとえドライタイヤで1周目、2周目にインターミディエイトを履いているドライバーたちより1周5秒遅くてトータルで10秒ロスしたとしても、レース中のピットストップでは約20秒のロスがあるので、先にタイヤ交換を済ませると単純に計算しても10秒の得になります。ピットレーンからスタートするというハンディもありますが、それを含めても僕たちのグリッドポジションを考えれば失うモノより得るモノの方が断然大きいんです。

 結局、想像以上にドライタイヤのペースが良かったので、毎周5秒もロスをすることはありませんでした。一時3番手と4番手を走行しましたが、あのような状況でトラフィックにはまらないで自分のペースで走れるというのは、なかなかできることはではありません。

 ケビンがランス・ストロール(レーシングポイント)に追いつかれた時は、すぐに抜かれるかと思ったのですが、ポジションを守るような走りをしていたわけではなかったのに、かなり長いこと抜かれずに走ることができたのも収穫です。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第3戦ハンガリーGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

 この時のレースペースがなかなか良かったのですが、これは去年のクルマの反省点が今年のクルマに活かされているからです。前述の通り第1戦は2台ともリタイアでしたが、実はケビンがレース後にわざわざピットウォールにいる僕のところに来て、「今年のクルマはレースでプッシュできるから楽しい」と20分以上も座って話してくれました。バルセロナテストで手応えをつかんではいても、やはり実際にレースコンディションで走るまでは不安だったようです。

 今回のレースでは第1スティントはもちろん、タイヤの差があったとはいえ第2スティントでシャルル・ルクレール(フェラーリ)を徐々に引き離していったときもミスなくラップタイムを刻むことができていましたし、カルロス・サインツJr.(マクラーレン)がルクレールを抜いた後は毎週1秒以上縮められていたけれど、ケビンは焦ることなく走っていました。

 ロマンもアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)と接触するまでは良いペースで走っていました。アルボンは少し強引でしたが、ロマンはアルボンとレースをしているわけではないので接触は避けてほしかったです。あの接触でかなりダメージを負ったので、ペースを保てなくなり順位を落としてしまいました。あれがなければ、ケビンのすぐ後ろでフィニッシュして、ダブル入賞の可能性もあったのでもったいないですよね。

アレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)&ロマン・グロージャン(ハース)
2020年F1第3戦ハンガリーGP アレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)&ロマン・グロージャン(ハース)

■「あの判断ができなかったら、エンジニアを引退しようと思うくらいです」


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