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F1 ニュース

投稿日: 2020.08.05 20:55
更新日: 2020.08.05 21:01

【中野信治のF1分析第4戦】衝撃的ファイナルラップを引き起こしたタイヤマネジメントの難しさと奥深さ

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F1 | 【中野信治のF1分析第4戦】衝撃的ファイナルラップを引き起こしたタイヤマネジメントの難しさと奥深さ

 3か月遅れながら、ついに始まった2020年のF1シーズン。王者メルセデスに対して、対抗馬最右翼のレッドブル・ホンダはどのような戦いを見せるのか。レースの注目点、そしてドライバーやチームの心理状況やその時の背景を元F1ドライバーで現役チーム監督、さらにはF1中継の解説を務める中野信治氏が深く掘り下げてお伝えする。第4戦のイギリスGPはなんと言ってもレース後半に連続したタイヤアクシデントのインパクトが強烈でした。今回はそのF1マシンのタイヤマネジメントの難しさと、タイヤを労って走るドライビングの難しさを中心にお届けします。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 まずは今回のレース、最後が衝撃的すぎましたよね(苦笑)。ファイナルラップでトップの(ルイス)ハミルトン(メルセデス)はじめ、レース残り3周でトップ6台のうち3台がタイヤバースト。あのようなドラマは作ろうと思っても作れないくらいです。当然、レース序盤にセーフティカーが入って戦略が変わって、後半のタイヤのライフが厳しくなることは分かっていたとはいえ、今のF1のタイヤマネジメントは本当に難しいのだなということがよくわかりましたね。

 タイヤが持たないとか、単にグリップが落ちてペースが落ちていくとかだけではなくて、レースではああいった形でタイヤがパンクしてしまうリスクもはらんでいるということが、見ている方たちにもはっきりとわかった場面だったと思います。タイヤのマネジメントが、単に速い遅いということ以上に重要だということが、非常に見た目でわかりやすいレースになりましたよね。

 また、チームもドライバーも、あそこまでギリギリのところを攻めていることを改めて思いました。スタート前のドライバーたちのインタビューを聞いていても、1ストップ作戦は「かなりタイトだ」ということを言っていたので、テストの段階でタイヤの減り具合を確認して、おそらくこれくらいラップ数までは大丈夫だろうと計算できますが、その計算から予測したラップ数というのが、おそらく結構ギリギリだったんですよね。

 それがセーフティカーが入ってしまったことにより、みんなが予想していた以上に長いラップを走らなければいけなくなってしまったので、そこでいろいろなドラマが最後に生まれることになりました。

 いわゆるタイヤを持たせられるドライバーと持たせられないドライバーの違いというのは、クルマのセットアップの違いにも要因があります。セットアップを予選向けにしているか決勝向けにしているかというのも多少あると思います。

 僕がF1に参戦していた1年目(プロスト)の頃は予選でチームメイトとかなり差がありましたが、実際には僕はレースセットアップだけに集中していました。なのでレースのペースは毎回悪くなかったんですよね。シーズン途中にヤルノ(トゥルーリ)が来てからもレースペースではほぼ互角か勝っているレースが何度かありました。

 予選を狙うのか、燃料が重くてタイヤマネジメントが重要な決勝重視か、ドライバーとしてはそういった割り切りも必要だと思います。予選に自信がある人は予選重視のセットアップで行ってもいいし、僕は当時のマシンがそもそも自分の走らせ方と合っていなかったというのと、予選セットアップをいろいろな事情があってできなかったこともあって、レースの方に集中して切り替えていました。ですので当時は決勝でのロングラン重視の戦い方になっていました。

 今のF1では予選と決勝、両方でまとまるようなセットアップを作っていくのですけれど、予選向け、決勝向けにしていくセットアップもあるんですよね。ドライバーの好みや特性もありますが、予選は遅いけれども決勝は速い、逆に予選は速いけれども決勝は苦しんでるなというのは、そういう方向性の違いがある可能性もあります。

 そのクルマのセットアップの進め方に加えて、タイヤマネジメントにはドライバーのドライビングが関係してきます。ブレーキの踏み方、スロットルの開け方、ステアリングの切り方、そのすべてをクルマに合わせて動かせることができるドライバーはタイヤに優しいんですよね。

 クルマの動きに逆らってアンダーステアやオーバーステアを消すようなドライビングをしていると、必ずどこかに歪みが来ます。オーバーステアを消そうとして強引にフロントタイヤを使ってタイヤを壊したり(表面のゴムを削って本来のグリップが発揮できなくなる)、アンダーステアを消そうとしてリヤタイヤを酷使すると、今度はリヤタイヤが壊れたりなどの現象が起きてしまいます。

 もともとのドライビングスタイルが、マシンではなくて自分で向きを変えてコントロールする乗り方、強引にクルマの向きを変えるようなドライバーは予選では一発の速さを出せることも多いですが、決勝のロングランでのタイヤマネジメントに関しては逆にネガティブになってしまいます。

 クルマの向きを強引に変えるテクニックがないドライバーは、乗り方はクルマの方に合わせようとしていきます。クルマのセットアップもそうなっていくので、タイヤに対しても優しくなります。でも、かといって、ステアリングの切り方やトラクションの掛け方が丁寧な方が良いかというとそうとも言い切れなくて、運転の仕方はマシンによって変わります。

 ただ丁寧に運転して、クルマが曲がらないからとコーナーでアンダーステアを出していても駄目です。クルマの向きを早めに変えて、早めにアクセルを入れて荷重をかけられると向きも変えられるしフロントタイヤにも優しくなります。そして早めにマシンの向きも変わっているのでトラクションも掛けやすい。タイヤに縦方向に荷重を掛けることができて、横方向に同時にかける荷重が少なくなって、当然タイヤの磨耗も良くなります。

 そのあたりの走らせ方というのは、セットアップ、燃料搭載量、ドライビングスタイルにサーキットのコンディションなど、その時の状況でいろいろな要素がミックスされているのですごく奥が深い。イギリスGPでも最後、ハミルトンよりも先にチームメイトのボッタスのタイヤがバーストしてしまいましたが、ハミルトンは「ボッタスの方がタイヤを酷使していたはずだから、自分は大丈夫だと思っていた」と言っていましたよね。

 それでも、その後にやっぱりハミルトンもタイヤがバーストしてしまうわけで、注意していたハミルトンでさえ、それだけシビアでギリギリなところで走っていたわけです。これはタイヤウェアと言う、『これ以上タイヤの表面のトレッド面のゴムがなくなってしまうとタイヤが剥離してしまう限界点』というのがあるので、ハミルトンのタイヤも結果的にその限界点を超えてしまったというわけです。

 ハミルトンは丁寧に走って、ボッタスよりタイミングを遅らせることができたわけですが、そもそものメルセデスの他のマシンより圧倒的にラップタイムが速かったですし、ラップタイムが速いから、いくら丁寧に走っていてもタイヤは減っていきます。そのハミルトンの限界点があのファイナルラップだったということですよね。

2020年F1第4戦イギリスGP 左フロントタイヤがバーストしたルイス・ハミルトン
左フロントタイヤがバーストしたまたトップチェッカーを受けたハミルトン。タイヤはトレッド面の剥離が見られる

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