ベッテルとニューウェイの両方に当てはまるような論評は、ほかにもいくつかある。例えば、ベッテルはこう指摘する。
「多額の報酬を積めば、優れた人材を招き入れることはできる。でも、究極的により重要なのは、その人が仕事を楽しんでいるかどうかだ。楽しんで仕事をしている人は、進んでほかの人より長く働こうとするだろう。そういう人はただボンヤリとオフィスに座り、勤務時間が終わって家に帰れるようになるのを待つことはしない。むしろ家に帰ってからも、どうすればより速いマシンを作れるかを夜中まで考えているはずだ」
「エイドリアンが際立っているのは、ほかのレーシングカーデザイナーの多くとはまったく違うレベルから出発するという点だ。当たり前のことは、誰にでも見える。だけど、ほかの人々が気づかなかったり、あまり関心を示さなかったりすることに目をつけるには、ある種の才能が必要だ」
「彼がエンジニアとしての日常業務から一歩退くことを望んでいると聞いたときから、僕には分かっていた。たったひとつのきっかけ、何かしら興味を引かれることさえあれば、エイドリアンはまた全力で仕事を始めるだろうとね。そうせずにはいられないんだ。そんな競争心、レーシングスピリットは、彼の人格の奥深いところから発していて、決して消えることはない」
だが、ニューウェイという人物には意外な側面もあるようだ。ベッテルによると、「2011年にレッドブルでエイドリアンとともに勝ち獲った2度目のタイトルには、特別な意味があった。前年の初タイトルがまぐれや幸運によるものではなく、もはや証明すべきことなど何もないと、堂々と言えるようになったからだ。成功してもいい気になってはいけない、思い上がることが転落への第一歩だと、僕はよく口にしてきた。だけど、あの年のタイトル獲得を決めた鈴鹿のレースの後だけは、思い切り羽目を外してお祝いのパーティをしたよ」
あのニューウェイも、パーティアニマルに変身したというのだろうか。ベッテルはニヤリと笑いながら言う。
「あの晩、バーやそのほかの場所で何があったのかとか、そういう話は内緒にしておいた方がいいと思う。ただ、こういう言い方はできると思うよ。エイドリアンは何かをやる時には徹底的にやる人で、それはサーキット以外の場所での振る舞いにも適用されるんだ」
ベッテルのニューウェイに関するコメントで、ニューウェイがベッテルについても言いそうなものを、もうひとつ紹介しよう。
「世の中には才能に恵まれた人たちと、ズバ抜けた才能に恵まれた人たちがいる。その違いは、彼らの頭の中にある」
あるいは、こんな言葉もある。
「彼はものすごいハードワーカーだ。ときには、ちょっとやり過ぎと言われかねないほどにね。そして、彼ほど的確に自己批判ができる人はめったにいない」
最後にベッテルはふたりの関係について、こう締めくくった。
「僕らがあれほどの成績を残せた根本的な理由は、傑出したレーシングカーデザイナーが、そこそこのレーシングドライバーと組んで仕事をしたというだけではなく、僕らを強く結びつけた互いの人間性にもあったと思う」
「いつも感じることだけど、エイドリアンは知的な意味でとても面白い人だ。モーターレーシングにとどまらず、彼と議論ができない話題はないと言ってもいいほどだ。僕が2009年にレッドブルに加わると、僕らはすぐに互いに共感を覚えるようになり、そこから本当に特別な友情が育まれた。その友情は僕がチームを離れてフェラーリへ移籍してからも続いているし、彼がレーシングカーデザイナーの仕事を辞め、僕がF1ドライバーを引退した後もずっと続くはずだよ」
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現在発売中の『GP Car Story Special Edition Adrian Newey』では、今回お届けしたセバスチャン・ベッテルのほか、ニューウェイが所属したF1チームで同僚だった人物たち、イワン・カペリ、デイモン・ヒル、マーティン・ウイットマーシュらにもニューウェイとの思い出を語ってもらっている。
今回のスペシャルエディションは、もちろん単体でも十分楽しめるが、ニューウェイの自叙伝『HOW TO BUIKD A CAR』の内容を補完する意味でも、熟読したうえで読んでもらえると、副読本としての価値を見出してもらえるはずだ。GP Car Story Special Edition Adrian Neweyは全国の書店やインターネット通販サイトで発売中。内容の詳細と購入は三栄オンラインサイト(https://www.sun-a.com/magazine/detail.php?pid=11529)まで。