2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。ケビン・マグヌッセンとロマン・グロージャンというペアで迎えた4年目のシーズンは、チーム再建に向けた第一歩ということもあって、非常に苦しいシーズンだった。
その2020年をもって、ケビン・マグヌッセンがチームを離れることに。グロージャンと一緒にハースの躍進を支えたマグヌッセンは、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権に戦いの場を移すことになった。強気なドライビングを活かして、IMSAでも変わらぬ活躍を見せてくれるだろう。
さてそんなマグヌッセンと一緒に4シーズンを過ごした小松エンジニアにとって、マグヌッセンはどんなドライバーだったのか。そしてチームにどれほどの貢献をしてくれたのだろうか。この4シーズンを、小松エンジニアが改めて振り返る。
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ケビンとは、彼がハースに来る前は一緒に仕事をしたことがなかったのですが、ハードにレースをするドライバーだなという印象でした。ハース1年目はロマン(グロージャン)とエステバン・グティエレスというペアでしたが、エステバンはレースに弱くその弱みをライバルたちにも見透かされていました。そういう事情もあり、誰が相手でも引かずに、強気でレースができるドライバーが欲しかったので、そんなケビンのドライビングスタイルもチーム加入の決め手のひとつになりました。
ハースでの第一印象は、シャイだけどいいお兄ちゃんという感じです。でも、僕の前ではやはり猫をかぶっていますね。一度カマをかけてケビンの好きなアルコールなどの話をしたことがあるのですが、その時のケビンはかなり驚いて「なんで知ってるの? 誰から聞いたの?」とずいぶん気にしていました(笑)。誤解を恐れずに言えば、かわいいヤツです。
それに、ある意味すごくシンプルな人間です。たとえばロマンは料理本を出してみたりeスポーツのチーム運営をしたりと、レース以外にも様々なことをやっています。でもケビンはとにかく「レースに勝ちたい」と他のことには手を出さないでレースに取り組んでいます。
ちなみに、ケビンのフィジオやトレーナーはデンマーク人で、みんなよくお酒を飲むのですが、飲むとゲームを始めるんです。どのようなゲームかというと、相手の肩を思いっきり殴るだけ。なんで? と思いますが、そういうゲームのようです。ある時、このゲームに参加していたケビンのトレーナーが酔っ払って殴る箇所を間違えて、手を骨折してしまいました。するとその1カ月後くらいに、ケビンのフィジオも骨折していたのです。まさかと思って理由を聞くと、お酒を飲んで同じゲームをしていたとのこと。ぶっ飛んでいますよね。ケビンにもそういうところがありますが、僕の前ではだいたい静かに良い子のふりをしていました(笑)。
そんなケビンですが、レースでは1周目からアグレッシブにポジションを上げることができるドライバーです。闘争心という本能があるのでしょうね。だからといって他車とぶつかることもないし、そのあたりはロマンと逆です。それから、ひとりで淡々と走っている時はとにかくいいペースで、自分の“ゾーン”に入っている時はミスなく走ってくれました。
強気でレースができるドライバーなので、ロマンのこともプッシュしてくれました。彼のいいところは、金曜日にロマンより遅くても自信を失わないで、「自分は予選までにロマンと同じ速さで走れるようになる」という自信があったこと。だから予選でもレースでも、お互いプッシュし合ってくれたというところに感謝しています。タイプは違えど、プッシュし合えるふたりのドライバーがいないとチームは良くならないし、明確にナンバー1とナンバー2という状況になるとチームの士気も下がってしまいます。それに2019年は選手権でロマンに勝っていますし、そういう意味でもある程度、期待した通りのパフォーマンスを発揮してくれました。