反対に、あまりレースの全体像を掴めないタイプなので、自分の置かれた状況を正しく把握するのが難しいというのが短所でした。そして常に一発逆転を狙って賭けに出ようとするところがあります。こういうところは特に状況が刻々と変わる雨の予選やレースで出てきます。もしもう少しレースでの自分の位置をきちんと把握できていたら、ギャンブルに頼らずに冷静な判断ができたのではないかと思います。
それから、これまでのコラムでも何度か書いたことがあるのですが、ケビンは他のクルマに抜かれた後や、雨などの不可抗力があると一気にペースを崩す傾向があります。そうかと思えば2020年第14戦トルコGPのように、我々を驚かせてくれたりもします。この時はまったく参考になるデータがないうえに、初日から路面状況が酷くてグリップもありませんでした。そして土曜日以降は雨が降ったので、非常に不安定な難しい状況でした。しかし彼はFP1から速さを発揮して、どのサーキットでもすぐに速さを発揮できるタイプのロマンよりも良いペースで走りました。
この予選ではイエローフラッグのせいでケビンの頑張りが結果には繋がらず、決勝でもチームのピットストップミスによって入賞を逃してしまいましたが、あの時は本当によくやってくれました。参考になるデータなどがない状況でここまでの速さを見せたことは4年間なかったので、正直驚きました。

もうひとつ良かったレースを挙げるとすれば、第3戦ハンガリーGPです。路面が濡れた状態でドライタイヤを履くというのは必ずしも今までのケビンの得意な状況ではなかったものの、難しい場面を切り開いていくという強さが光りチームにポイントをもたらしてくれました。
またこれも以前コラムで触れたことですが、ケビンはハースに加入するまで、同じチームで2年以上F1に参戦した経験がありませんでした。1年しかチームにいられないという状況では、レースをしながら契約のことなどいろいろと考えていたようですが、ハースではレースに集中できていました。チームに慣れて、そしてチームのことを信用して居心地のいい場所だと感じてくれたのは大きいですね。そういう環境を与え、落ち着いて信用できる環境でレースをさせてあげることができてよかったと思います。
そんなケビンの今だから言える話ですが、2019年第10戦イギリスGPでロマンと同士討ちした後は大変でした。シルバーストンでは旧スペックのマシンと新スペックのマシンを走らせてデータを集めていたところだったので、接触したリタイアとなったことで、ギュンター(シュタイナー/チーム代表)は怒り心頭でした。
ギュンターはレース後も怒りが収まらず、怒鳴りたいだけ怒鳴ってドライバーの言い分をまったく聞きませんでした。結局、その後で僕がケビンと話をしに行くことに。まるで喧嘩の仲裁をしているような感じでしたけど、ケビンはギュンターがドライバーの言い分を聞かない状況で怒られたことに「フェアじゃない、納得できない」とかなり怒り震えていました。こんなに怒っているケビンは見たことがなかったですしその時は大変でしたが、今思えばこれもお互いが成長していく過程でぶつかり合ったことで、後には引きずりませんでした。
