レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る

F1 ニュース

投稿日: 2021.09.23 14:52
更新日: 2021.10.21 17:23

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第14回】度重なる同士討ち。ニキータとミックの話し合いでチームオーダー発令を回避

レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る


F1 | 【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第14回】度重なる同士討ち。ニキータとミックの話し合いでチームオーダー発令を回避

 2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。3連戦の最後は、超高速サーキットであるモンツァが舞台のイタリアGPだ。ニキータ・マゼピンとミック・シューマッハーのふたりは、前戦オランダGPでの一件を経て、同士討ちを起こさないようにするために話し合いを行ったというが、モンツァでまたも接触してしまった。解決にはまだ時間がかかりそうだが、この2戦の間に行われた議論の内容と、現場の事情を小松エンジニアがお届けします。

────────────────────

2021年F1第14戦イタリアGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選20番手/スプリント予選17番手/決勝リタイア
#47 ミック・シューマッハー 予選18番手/スプリント予選19番手/決勝15位

 今季2度目の3連戦が終わりました。前戦オランダGPの舞台となったザントフォールトはダウンフォースを最大限につけて走るサーキットですが、今回のモンツァでは直線スピードを稼ぐためにドラッグを削って低ダウンフォース仕様で走るので、クルマの感触がガラっと変わるのでふたりのドライバーがどのように対応できるかがひとつの焦点でした。

 結論から言えばニキータはこれに比較的うまく対応していたと思います。イギリスGPの時にニキータを担当しているエンジニアたちが少し方向性の違うセットアップでいいものを見つけ、これをもとにハンガリーGP以降は特性の異なるサーキットでも、安定してニキータに合うクルマを作ることができています。

 ニキータ自身もクルマの特性をよく把握できてきました。モンツァでもダウンフォースが効かないなか、自信を持ってブレーキングしていて、以前のように迷路にハマってしまうようなこともありませんでした。「このクルマの動き方はグリップが変わっても、基本的に前のレースと同じだ」という感覚が自信に繋がっていたのだと思います。

ニキータ・マゼピン(ハース)
2021年F1第14戦イタリアGP ニキータ・マゼピン(ハース)

 だからこそ、予選でのミス(第2シケインで突っ込みすぎて大きくタイムロス)や決勝レースでミックと接触したのは残念でした。このふたつがなければ、週末を通してとてもよくやっていたと思います。フリー走行での速さを見ていると、予選でもミスをしなければミックより速かったはずですし、ウイリアムズにも近づけていたと思います。

 また、レースでは接触以外にもちょっとまずかったことがありました。ニキータはVSC後の再スタートでミックに抜かれ、第1スティントはずっとミックに引っかかる形になりました。そこで、彼はどうしても第2スティントで履くタイヤをミックと逆にしたかったのです。日曜のレースは暑くなったので、第2スティントはハードタイヤでいくという基本戦略を採っており、これはドライバーふたりにもしっかり事前に伝えていました。ミックと違うタイヤを履くということは第2スティントでソフトタイヤ履かなければいけません。あの路面温度ではどうみても厳しい選択です。しかし、それでもどうしても「ミックと逆の戦略でやらせてほしい」と言うので、あまり失うモノも大きくないし、そこまで言うならとやらせてみました。

 しかし、実際にタイヤ交換をしてピットアウトした後、これでは無理だと思ったのでしょう、なんと無線でチームに対して「俺に間違った戦略を与えた!」と言うのです。いくらレース中で感情が高まっているとは言え、これはまったく感心できません。ですからレース後に腹を割ってふたりだけでしっかりと話しました。これから彼がF1ドライバーとして成長していくのであれば、絶対にこんなことをしていてはだめです。次は彼の地元のロシアGPです。週末を通してしっかりとまとめなければいけませんね。

ニキータ・マゼピン(ハース)
2021年F1第14戦イタリアGP ニキータ・マゼピン(ハース)

 一方のミックは僕が懸念していた通りブレーキングに自信を持てず、FP1から苦労していました。スプリント予選ではブレーキの踏み方があるべき姿からは程遠いモノでした。その後、データを見直してレースではよくなっていたものの、速さという面では、これまでのミックのレベルを考えると決して満足のいくものではありませんでした。振り返ってみればアゼルバイジャンGPでも同じようなことがあり、あの時も出だしからニキータの方が速かったです。バクーは市街地コースなので単純比較はできませんが、ダウンフォースを削ったクルマでブレーキを強く踏まないといけないコースにミックは弱いんだなという印象です。

 クルマのセットアップの方向性でも、ここのところミック側の方がちょっとふらふらとしています。ベルギーGPの時もそうで、あの時はFP1の後にミックとも話して、ニキータのセットアップを一部参考にしたらどうかと提案し、FP2で変更をかけたら状況はよくなりました。実はミックはクルマのセッティングの細かいことを言うので(このあたりは少しロマンに似ていますが、ロマンには経験がありました)、エンジニアリング側はその意見をしっかりとフィルターにかけられないと、ミックに振り回されてしまうことになります。この点の対応もチームとしての課題ですね。

ミック・シューマッハー(ハース)
2021年F1第14戦イタリアGP ミック・シューマッハー(ハース)

■次のページへ:接触を繰り返したニキータとミック。一時はチームオーダー発令の危機に


関連のニュース

F1 関連ドライバー

F1 関連チーム