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F1 ニュース

投稿日: 2022.09.16 13:10
更新日: 2022.09.16 13:19

【中野信治のF1分析/第16戦】髙難度の1コーナー攻略とレッドブルの逆発想。ポルシェ決裂で気になる2026年以降のホンダ

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F1 | 【中野信治のF1分析/第16戦】髙難度の1コーナー攻略とレッドブルの逆発想。ポルシェ決裂で気になる2026年以降のホンダ

2022年シーズンのF1は新規定によるマシンの導入で勢力図もレース展開も昨年から大きく変更。その世界最高峰のトップバトルの詳細、そして日本期待の角田裕毅の2年目の活躍を元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点で振り返ります。今回は第16戦イタリアGPのフェラーリのルクレールと、レッドブルのフェルスタッペンのアプローチの違いについてフォーカス。さらに、急きょデビューしたデ・フリースの際立った速さ、白紙となったレッドブルとポルシェの提携など政治的な話題についても触れていきます。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 2022年F1第16戦イタリアGPでは各ドライバーとも1コーナーへのブレーキングに苦労しているのが目立ちました。今年はマシンのレギュレーションが変わったことでクルマが重くなってはいますが、そのことよりも、このモンツァの1コーナーのもともとのブレーキングの難しさがあります。

 直線が非常に長いモンツァ・サーキットでは、どのチームも大きくダウンフォースを減らしているので、ブレーキングを安定させるのが難しくなります。そして実際に私も走っているのでよくわかるのですが、最終コーナーから立ち上がって、1コーナーに向けてコース幅が細くなっているわけではないけど、そう見えるくらいかなりタイトになっていく印象で、そのコース幅が狭いと感じるなかで、クルマをしっかりと止めないといけません。

 ストレートエンドは平坦で分かりやすい目印もないので、ブレーキングポイントが掴みずらいですし、さらに加えて、マシンのダウンフォースも少なく、直線が長いことから1コーナーのブレーキングまでにしっかりとタイヤを温めておかないと冷えてしまいます。そこでタイヤが冷えてしまうと、ブレーキでもロックしやすくなってしまいます。

 言い換えれば、それがモンツァをアタックするときの特徴にもなり、予選で1コーナーをギリギリのところでクリアすることができればタイムも大幅に縮まります。しかも、最初に難しいコーナーが待ち受けているので、各ドライバーはそこで決めていきたいと思っています。F1ドライバー全員が僅差のタイム差のなかで走っているので、その1コーナーでほんの少し手堅いブレーキングをしただけで一気にポジションを失います。1コーナーでのブレーキングはタイムに如実に効いてくるわけです。

●フェラーリとレッドブルの真逆のセットアップアプローチ

 今回のイタリアGPでは、レッドブルとフェラーリがマシンアプローチを正反対に変えてきました。フェラーリはダウンフォースを減らして最高速重視なのに対し、レッドブルは見るからにリヤウイングを立て気味にして、狙っている部分が違うことは一目瞭然でした。

 マックス・フェルスタッペン(レッドブル)はセットアップを決勝重視で考えていることを公言していました。通常のサーキットでは決勝に向けたセットアップとして、直線で追い抜きしやすい/追い抜かれないようにするためにウイングを寝かせるのが定石です。ですがモンツァの場合は、そもそものダウンフォース量がすごく少ない特殊なサーキットなので、追い抜きという部分では違う話になります。

 通常のサーキットでダウンフォースがあるマシンならウイング角度の違いはマシンの挙動に顕著に出てきますが、モンツァの場合はもともとのダウンフォース量が少ないので、少しくらいのウイングの角度の変更ではその差が出にくいサーキットです。

 ダウンフォースが少ないなかでのセットアップのメリット・デメリット、どちらを取るかというとき、さらにダウンフォースを減らしてしまうと、とにかくブレーキを踏んでもクルマが安定せずにフワフワしてしまい、さらにブレーキを踏むことができなくなってしまうことが容易に想像できます。

 そんな不安定な状態のままコーナーに入っていくと、今度はコーナーの立ち上がりでトラクションを掛けるときにもクルマが安定しないので、コーナーの進入、そして出口で、本当に良いところが何もなくなってしまいます。ダウンフォースが少なくてクルマが不安定だとレースではタイヤをいじめやすくなりますし、特にガソリンが満タン状態だとブレーキもかなり厳しく、ダウンフォースが少ない+燃料搭載量が多い=ブレーキに厳しくクルマは止まらないという状況になり、ブレーキも酷使してしまいます。

 その状態が続くと、ドライバーもミスを犯しやすくなりますし、モンツァの1コーナーへの進入でブレーキロックをしてしまうと、タイヤにフラットスポットを作って、その後の走行やオーバーテイクをすることも難しくなってしまいます。そのことをトータルで考えたとき、逆の発想でダウンフォースを付け気味で決勝に臨めると、ドライバー的にはかなりの強みになります。

 予選アタックの1周であればニュータイヤのグリップを頼ってダウンフォースの少ないセットアップでもタイムを出すことはできますが、決勝ではそうはいきません。やはりドライバーにとって思いどおりにクルマを止められるということは、モンツァではすごく重要です。モンツァは1コーナーを含めて、3つあるシケインでどうタイムを稼ぐかがキーポイントになるので、そういった意味でもブレーキングはすごく重要になってきます。

 予選ではフェラーリのシャルル・ルクレールがポールポジションを獲得し、イタリアのティフォシ(フェラーリファン)たちの盛り上がりも最高潮で決勝もそのまま優勝できるかのような雰囲気がありましたが、結果的に決勝はフェルスタッペンが(パワーユニット交換で)グリッド降格となった7番手から圧倒的な速さを見せて逆転優勝を果たしました。

 今回のイタリアGPでは、フェラーリはこれまでのマシンセットアップとは逆のアプローチをしました。前半戦のフェラーリはどちらかというとダウンフォースを付け気味でコーナリングで速さを見せていました。モンツァではその逆で、かなりダウンフォースを減らしていたので、一発タイムは良いだろうけど決勝は厳しいそうだとは想像していました。

 一方でフェルスタッペンは完全にレース重視というクルマのセットアップで、予選はフェラーリに譲るという内容を予選後のインタビューでも話していましたが、決勝ではそのフェルスタッペンの想定どおりの展開になりました。

 フェルスタッペンのセットアップが可能になった背景にはもちろん、レッドブルのパワーユニット(PU)の優秀さがあります。元はホンダが開発したHRC製のパワーユニットですが、今年のHRCのPUはパワーもあり信頼性も高く、高速のモンツァでダウンフォースを付けて走行することができる大きな自信になっていると思います。

 モンツァでダウンフォースを増やすにはPUのパフォーマンスがなければできないことです。レッドブルと同じことを今年のメルセデスはできないと思うので、そのPUの面で今年のレッドブルは大きなアドバンテージを得ています。

【動画】ルクレールとフェルスタッペン、予選オンボード映像の比較

 戦略面では、11周目にセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)のマシンが止まってしまったことで最初のバーチャルセーフティカー(VSC)が導入されました。このタイミングでフェラーリはルクレールをピットに入れましたが、レッドブルはフェルスタッペンをステイアウトさせました。フェラーリの戦略が正しかったかどうかは分かりませんけど、外から見ている限りでは正直、驚きました。

 53周のレース、12周目のピットインで最後まで走り切ることが相当厳しいことはフェラーリも分かっていたと思います。フェラーリとしても、中継で流れていないルクレールとの無線などでスタート直後の感触から『1ストップでは走り切れない』という事態になっていたのかもしれません。そうなると2ストップ戦略になるため、あのVSCのタイミングでピットインするしかなかったのかもしれません。いずれにしても、今回の戦略を採らざるを得なかったのは、そもそものクルマの作り方に要因があります。フェラーリはダウンフォースを減らしているのでタイヤのデグラデーション(性能低下)も大きくなり、タイヤの保ちも当然悪くなってしまいます。

 僕としては、フェラーリはタイヤが厳しくなることはレース前に織り込み済みで、予選はポールポジションを狙いに行くけども、決勝は厳しくなることを分かった上での戦略だったのではないかと思いました。そう考えると、あの環境のなかでフェラーリは戦略を失敗したのではなく、むしろ完璧な仕事をしたのだと思います。ポールポジションのルクレールだけではなく、(パワーユニット交換で)18番グリッドスタートのカルロス・サインツも4位フィニッシュと、レースでいい追い上げを見せていました。ただ『対フェルスタッペン』という部分では少し足りていなかったという印象です。

●速さのセンスを感じさせたデフリースの完成度の高い走り


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