予選におけるパフォーマンスに比べると、決勝のそれは明らかに苦しい。マルケロフが8レース中2勝、完走した6レースのすべてでシングルフィニッシュしているのに対し、牧野は最高位が9位にとどまっている。
第4戦終了時点の獲得ポイントはマルケロフの71点(ランキング2位)に対して、牧野はわずかに4点(ランキング18位)。決勝になると、予選で見せる輝きは一気に失われてしまう。
「いまの課題はレースペースです」
これまでのレースでは、オプションタイヤのペースは上位勢とも遜色ないが、プライムタイヤになるとラップタイムが引き離される傾向にあった。
「オプションに関しては、そんなに悪くないんですよ。ただ、オプションとプライムでは、クルマのバランスが大きく変わってしまう。『どっちに合わせるか?』となったら、プライムで走る時間のほうが長いから、当然そっちに合わせないといけないわけですが。そうしたところの見極めが難しい」
クルマのバランスに加えて、牧野はピレリタイヤのマネージメントに関しても頭を悩ませている。
「プライムタイヤは、スクラブのやり方で性格が大きく変わる。たとえばスクラブが丁寧すぎると、いざレースで履いたときになかなか熱が入らなかったりするんです。あとは僕自身の課題として最初の数周、タイヤに優しすぎる傾向があります。どれくらいまでペースを上げてスクラブするべきか、いろいろ試して、やっとつかみかけてきた感じがします」
牧野を悩ませるピレリタイヤは、たしかに扱いが難しい。2016年以前に採用されていたF1用タイヤと同様にワーキングレンジ(適正作動温度領域)は極端に狭く、デグラデーションも進みやすい。その特性を知る松下信治と福住、そしてディルマンまでもが、「SFのタイヤマネジメントは容易」と異口同音に語る。
「向こう(欧州)から日本に来て適応させるのはラク。だけど、こっち(日本)からヨーロッパのタイヤに合わせるのは、かなり難しい」(松下信治)
SFは世界的にも見てもレベルの高いカテゴリーで、そのシビアさの象徴はサードダンパーをはじめとしたマシンセッティングにある。これに対してF2は、その難しさの多くがタイヤに凝縮されているということだ。
津川氏が評価する“戦い方”
昨年の欧州F3ではレース中のバトルも課題だった。シーズン終盤になって“戦う牧野”が帰ってきたものの、それ以前のレースでは、物足りなさが感じられたのは事実だ。
「バトルに関しては欧州F3のほうがシビアでしたね。DRSがないぶん抜くほうも、おさえるほうもお互いにリスクを取っていかないと勝負できないですから。僕は今年のF2で初めてDRSを使いました。後ろのクルマにDRSを使われたときの距離の縮められ方が自分の感覚とは合わず『どのタイミングで動こうかな(ディフェンスラインを取ろうかな)』と戸惑ったときはありましたが、いまはずいぶんと慣れてきました」
そう語る牧野は国内外の関係者から「バトル時の空間認識能力が高い」と評価されているドライバーでもある。元F1メカニック、現在はジャーナリストとしてグランプリの現場に足を運ぶ津川哲夫氏もそのひとりだ。
「僕は最近の日本のレースのことをよく知らない(笑)。今年のスペインで初めて彼のレースを見たけど、あの子(牧野)はいいね。(バルセロナでの)レース1、結果は9位だったけど、スタート直後の1コーナーにしても、最終周のチームメイトとの8番手争いにしても、これまで何年もヨーロッパで揉まれてきた連中と互角に戦えている。とてもF2の1年目だなんて思えない戦い方だった。正直、久しぶりに将来が楽しみな日本人ドライバーが出てきたと思った」
今季のF2で上位を争っているのはノリス(マクラーレンF1リザーブドライバー)を除けば、そのほとんどがF2参戦2年目以上か、GP3経験者。「そうした連中のすぐ後ろを走れていれば今年の牧野くんは合格だと思う」と津川氏は言う。
まもなく中盤戦に突入する今季のF2。注目したいのは、ずばり“マキノ・スタイル”がマッチするレッドブルリンクの第6戦だ。奇しくも同じ週末にはタイでスーパーGTが行なわれている。2016年、日本の関係者に見せた衝撃を、今度はオーストリアから世界に示すことができるのか。