上海でも、優勝したルイス・ハミルトンと3位フェルナンド・アロンソの差は25.7秒。レース展開にかかわりなく“速い方のメルセデス"が他車に対して必ず築く25秒の差は、もはや偶然とは思えない。100kgの燃料を使って自分たちのパフォーマンスを測るのではなく、彼らは、誰が“Best of the rest"のポジションに来ても25秒リードすることを基準に、エネルギーマネージメントのデータを蓄積し、他メーカーの効率を計算しているのではないかと勘繰ってしまう。
ただし、メルセデス・ワークスの圧倒的な効率を別にして――パワーユニットの力をマシンと統合して考えると、オーストラリアではレッドブルのダニエル・リカルドが事実上の2位、マレーシアではセバスチャン・ベッテルが3位、上海ではフェラーリのフェルナンド・アロンソが3位でゴールした。メルセデス勢強しといえど、パワーユニットによる“車体への貢献度"も大切で、サーキット次第ではルノーやフェラーリの“トレードオフ"が、対フォース・インディアやウイリアムズにおいては有効であることが分かる。5月のヨーロッパ2戦はバルセロナとモナコ。どちらもストレートの短いダウンフォースサーキットで、メルセデス・ワークスがそこでも25秒の壁を築けるかどうかが、もっとも興味深い点だ。
中国GPに関して、メルセデス以外の最速、Best of the restに注目すると、アロンソのシーズン初表彰台、チャンピオン・ベッテルを圧倒したリカルドの速さが楽しい要素だった。まず印象的だったのは雨の予選で、開幕3戦ではダウンフォース重視だったベッテルが、今回はリカルドよりもわずかにダウンフォースを削ってきたように見えた――セクター通過速度も最高速も、ベッテルの方が速いのだ。そしてマレーシアGPとは逆のパターンで、今回はリカルドがウエット路面の予選を制して2位のグリッドを獲得した。
しかし予選Q3の最後、リカルドがベッテルを0.5秒上回るタイムを記録したのは、ダウンフォース云々よりも、インターミディエイトの2連続アタックラップに成功したからだ。ウエットで速度が落ちるとはいえ、1周あたりのエネルギー回収は最大2メガジュール(MJ)、放出は4MJというパワーユニットの使用規制の下、2連続で速いタイムを記録するのは難しい。トップ10のなかでトライできたのはルノー勢とニコ・ヒュルケンベルグで、2周目にベストタイムを記録したのはリカルドひとりだった。彼の勝因は、2連続の1周目から速いタイムで走行し、ウォームアップの難しいインターミディエイトの温度を維持し、ベストを2周目に合わせてきたところにある。
「午前中とは微妙に雨量が違っていて、コース上のアスファルトが変化するところなどは特に、ベストラインを見つけるのに苦労した」と、2位のタイムを記録したリカルドは説明した。「少し水の量が違うだけで、場所によってグリップがすごく変わったから」
Q1、Q2と、トライ&小さなエラーを繰り返した末、最後に見出したベストライン、そしてタイヤの使い方だった。
「いつか、アイルトン・セナのようにウエットで速くなりたい」と言ったのは、12年のサンパウロ――セナはもちろん憧れの存在で、インテルラゴスのパドックが古びているだけでも「セナもこの、同じパドックにいたんだよね!?」と感動していた。非力なHRTで走った頃から、ウエット走行を研究するのが大好きだった。
グリップを感じ取り、タイヤと路面の関係を分析し、ロングランの性能を予測する。HRT/トロロッソの2年半で鍛えた能力は、今シーズン、ドライ路面のレースでも大きなアドバンテージとなっている。コースを見る際、マシンの“ポジショニング"を彼はとても大切にする。レースを組み立てるときには“攻撃と防御の黄金比"を研究し続けた。
「アタックし過ぎて、タイヤを駄目にしてしまった。そもそも、スタート直後にあのラインを選んだのが、僕の最初のミスだ」というふうに、幾度か失敗し、自己批判することによってレースクラフトに磨きをかけてきた。
正確なドライビングで、ひとつひとつ着実に学んでいくドライバーだ。トラブル続きだったこの冬のテストを経ても、データの豊富なトップチームで走ることによって、学習熱心は加速したに違いない。レッドブルが彼を選択したのは、失敗から目を逸らさない精神力の強さと、生まれ持った速さに賭けたからだ。
それでも、課題はたくさんある。たとえば上海のフォーメーションラップでは最終コーナーの先で極端にペースを落としたハミルトンに翻弄され、偶数グリッドからの発進も災いしてベッテル、アロンソに先行された。第2スティント中盤には、タイヤに苦しんでペースを落としたベッテルを抜きあぐねた――レッドブルチームのコミュニケーション・ミスも影響した。リカルドに道を譲るようチームから告げられても、ベッテルには状況が把握できなかったのだ。そしてリカルドは、前のマシンの乱気流を受けるとフロントタイヤが一気に摩耗することを、よく知っている。
さらに、2ストップに集中したチームは、33周目にアロンソがピットインした際にも、第1スティントと同じように4周の間、リカルドをステイアウトさせてしまった。ラップタイムも最高速も互角のレッドブルとフェラーリ。アロンソの勝因は、マッサの接触をものともせず強気にスタート直後のポジションを勝ち取ったことと、34周から37周の間にフレッシュタイヤを履いてリカルドに対するマージンを広げた点にある。そして最終スティント、レッドブルが間隔を詰めてきた際にもアロンソは堂々と自己ベストを記録し、絶妙のコントロールで主導権を握り続けた。リカルドがアロンソを抜くのに必要だったのは“あと数周"ではなく“スタート"と“作戦"、自分中心のレース術だった。
王者ベッテルは若いチームメイトの力を認め、フェアに「何か学ぶべき点がある」と言う。「こんな大きな差は、微妙なセットアップの違いで生まれるものじゃない」と。
レース中、リカルドのエンジニアは「メルセデスを除けば、誰よりも速い」とドライバーに告げた。そしてYou are quicker than Alonso, AND Vettel――「アロンソと、ベッテルよりも速い」と加えた。去年までのウェーバー・チームは、どんどん士気が上がる。
4連覇を飾ったチームの誇りとリカルドの性格を考えても、チーム内に混乱が生じることはないだろう。今は打倒メルセデスあるのみ――アロンソと、レッドブルのふたりの対決が、上海のレースを引き締めた。ある意味メルセデスのふたり以上に、濃密なコンペティションは男前――だからゴールの後が、こんなに清々しい。