2015年からF1に復帰するホンダが、今季からマクラーレンと協調しドライバー育成プログラムを実施。GP2のトップチーム、ARTグランプリとパートナーシップを結び、マクラーレン若手育成プログラムのストフェル・ヴァンドールンと、ホンダ育成出身の伊沢拓也がGP2に参戦することになった。いわばF1に直結する形でGP2に参戦する伊沢とはどんなドライバーなのか。F1しか見ていない人にぜひご紹介したい。
伊沢は1984年6月1日生まれ。東京都出身で少年時はサッカーをしていたが、95年にレーシングカートを初体験。カートで頭角を現し、鈴鹿サーキットレーシングスクール・オブ・フォーミュラ(SRS-F)を主席で卒業。ARTA Projectの下で、運転免許がなくてもレースに参戦できる限定ライセンスを日本で初めて取得。17歳で四輪デビューし、2002年にF4に参戦した。
翌年、伊沢はヨーロッパに渡りフォーミュラ・ルノーに参戦。18歳でヨーロッパでひとり暮らしを経験する。翌年には帰国し、フォーミュラ・ドリームに参戦。しかし、2年目には塚越広大に全勝を許すなど苦い思いも味わった。
2006年には戸田レーシングから全日本F3に参戦。トヨタエンジン勢が強さを発揮する中で優勝2回。鈴鹿で特に強さを発揮している。08年にはフォーミュラ・ニッポン、スーパーGT500クラスに抜擢。Fニッポンではデビュー戦でフロントロウ獲得という快挙も達成。GT500では前年のチャンピオンカーをドライブし、翌09年に初勝利。Fニッポンでは初勝利まで時間がかかったが、12年に初優勝を遂げると2勝。タイトル争いを展開した。
これまで国内の結果を見ると、圧倒的な成績や華々しい結果が残っている訳ではないが、確実なスピードがあり、その能力が買われていることは14年からの新型車両、スーパーGTのホンダNSXコンセプト-GT、スーパーフォーミュラのSF14のステアリングを最初に任されていることからも分かる。これまでチームメイトだったラルフ・ファーマンやロイック・デュバルとも普通に英語で会話もこなしてきており、英語力も問題はなさそう。もちろん確固たる能力がなければ、ホンダはヨーロッパには送り込めないはずだ。
そんな伊沢だが、ふだん口数はそこまで多い方ではないが、実はかなり“物言う”タイプ。ドライバーズミーティングでも不満や分からないことがあれば、率先してズバズバと発言する。ただ熱くなることは少なく、あくまで冷静に、理詰めで話してくる。こちらが取材をしていても、逆に要点を指摘されてドキリとさせられることも多い。
とは言えレースのことから一度話題が離れれば、どこにでもいる30歳の顔もみせてくれる。ライバルであり、親友でもある塚越広大や山本尚貴と話している時は、そのあたりにいる若者と同じような会話だ。ちなみにアニメ好きの一面も。伊沢のヘルメットの後方に描かれている天秤の模様は、伊沢が大好きな『東のエデン』に出てくるもの。飾り気が少なく、変にスターぶることはない。チームスタッフからも人気を集める、不思議な魅力をもつ男だ。
伊沢にとってひさびさのヨーロッパ挑戦となる今回のGP2参戦。最近のGP2はドライバーの年齢層が若く、伊沢の30歳という年齢を疑問視する声も多い。しかし、伊沢にはこれまで国内で培ってきた経験という武器がある。10代や20代で、メーカーと仕事をしたことがないドライバーには逆立ちしても出てこない引き出しだ。現在の潮流は、とにかくF1チームは若いドライバーを求める傾向にあるが、年齢的に30歳代がレースがハンデになるかと言えば、まったくそんなことはないだろう。
まずはGP2で、マクラーレンの秘蔵っ子であるヴァンドールンに対して“違い”をみせられるかどうか。そしてマクラーレンのファクトリーを有効に使い、いかにF1に近づくことができるのか。日本のモータースポーツ界、そして後に続くドライバーのためにも、伊沢の2014年を応援していきたい。