2014年に全日本F3選手権からスーパーフォーミュラにステップアップし、ルーキーイヤーながら、劣勢と言われたホンダ陣営にシーズン唯一となる優勝をもたらした野尻智紀。今年も引き続きDOCOMO TEAM DANDELION RACINGからシリーズに参戦するとともに、スーパーGTでもGT500クラスを戦っている。

 スーパーフォーミュラでは、今シーズンも第2戦岡山で3位表彰台を獲得。予選でも第2戦と第4戦で2番手につけるなど、存在感を発揮しており、第4戦もてぎを終えた段階でシリーズランキングでは5位。ホンダ陣営では最上位につけている。そんな野尻の目指すもの、GP2シリーズで活躍する松下信治と“争う”ことになるかもしれない、F1へのステップアッププランとは。

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Q:スーパーフォーミュラの今季序盤3戦を振り返っての感想を教えて下さい。(※このインタビューはスーパーフォーミュラ第4戦もてぎの現場で収録しました)

野尻:本音で言うと、もう少しポイントを稼げるレースはあったかなと感じています。でも、十分に戦える速さが今の僕とこのチームにあると思っているので、ここからが非常に重要だと思っています。

Q:シーズン開幕前は、どのようなところを目標としていたのでしょうか?

野尻:昨年は、序盤戦はトヨタとホンダで差がついてしまった部分もあったと思うのですが、今年はテストを走っていたときからそうした感じでもありませんでした。チャンピオンシップとまでは考えていませんでしたが、去年は優勝もできているし、常に上位に入り、僕個人が速いドライバーだと周りに意識付けるような位置でレースをしていきたいとは思っていました。特に具体的な数字は決めていませんでしたね。

Q:3戦を終えた段階で、その点は達成できていると感じますか?

野尻:まだまだだとは思っていますが、逆にここまでやってきて、具体的にチャンピオンシップを狙える状況だと感じています。その点では、目標は変わっています。

Q:今年は、野尻選手の担当エンジニアが変更となり、チームメイトも新たにナレイン・カーティケヤン選手となりましたが、その変化にはどのような印象をもっていますか?

野尻:僕にとってはやりにくくなったとかそういう感じはなくて、去年と同じで、すごくいい環境があるかなと思っています。だからこそ、よりチャンピオンシップというものも意識しています。今後レースを続けていても、こういう環境になることはもしかしたらないかもしれない。ここでもっと詰めてやっていかないといけないと感じています。

Q:野尻選手のリザルトとして、F3よりもスーパーフォーミュラにステップアップした後の方が好結果が出ていると思うのですが、その要因をご自身ではどのように考えているのでしょうか?

野尻:う〜ん、分からないですね。でも、気の持ち方として「やるだけやってダメだったらしょうがない」と考えるようにはなりました。

Q:そういった心境に達したのはいつ頃なのでしょうか。

野尻:F3の最後の年(2013年)くらいですね。それまでは、絶対に負けたくないという気持ちばかりが先行していて、あまり周りが見えていなかったのかなと思います。

Q:そう考えるに至るきっかけが何かあったのでしょうか?

野尻:その年はREAL RACINGから戸田レーシングに移籍して、環境が変わったんですよね。加藤寛規さんが監督で、いろいろなことを教わりました。加藤さんやチームの考え方として、勝てはしなくても、しっかり良いところは良いところとして評価してくれる部分があったりしたんです。もちろん、結果がダメなら色々なことを言われますが、その中でも良いところをうまく僕に伝えてくれたりしていたので「ここは良いのか、じゃあ次はダメだったところを直そう」みたいに、良いところは良いと判断できるようになった部分はあると思います。

Q:全日本カート選手権のチャンピオンを獲得するなど、カート時代から実績を残してきた野尻選手ですが、それでもまだ、監督など人との関わりの中で変わってくるものがあるんですね。

野尻:結構変わりましたね。僕自身、カートをすごく順調に戦うことができて、常に結果も出してきたような中で4輪に上がってきていたので、結果が出ない自分がすごく嫌だった。僕の中で、勝つのが当たり前という部分があったので、(現実を)受け入れていなかったのかもしれません。

Q:そこで得た気構えで戦い、好結果が出ているスーパーフォーミュラですが、今シーズンは3戦を終えて、ホンダ勢では最上位の6位。2013年王者の山本尚貴選手よりも上位につけていますが、ホンダでトップになるという点は意識していますか?

野尻:そこは僕はあまり気にしていなくて、山本選手は開幕戦の鈴鹿で3位を走っていて落とした分がありますし、別に僕がホンダでいちばん速いとも思っていないです。まだまだだと感じていますね。

Q:ホンダがF1復帰を果たした今、日本でトップにいれば参戦の道が見えてくると思うのですが、野尻選手もやはりF1を走りたいという気持ちはあるのでしょうか?

野尻:それはもちろん走りたいですよね。タイミング的にはバッチリというか(笑)。スーパーフォーミュラには中嶋一貴選手や小林可夢偉選手など(F1を経験したドライバー)がいますが、同じようなスピードを出すことはできるんです。ただ“F1で結果を残す才能”というのは、速さ云々というよりもまた別にあると思っているんです。F1という世界はまた特殊だと思うし、向こうの環境に慣れるところから始めなくてはいけないですから。でも、そのチャンスをつかむために、今年チャンピオンを獲りたいという思いももちろんあります。

Q:野尻選手としては、その“F1で通用する才能”とはどんなものだと考えているのですか?

野尻:図太さですかね。うまく言えませんが、今、松下(信治)選手がGP2に行っているじゃないですか。彼は「周りが何を言っても関係ない」みたいなところがあって、野心みたいなものもすごくあるんですよね。

Q:野尻選手は図太い方なのでしょうか。

野尻:僕も一度、カートでヨーロッパへ行っていたことがあるのですが、その時はメンタルをやられて帰ってきました。当時は言葉もイマイチ話せませんでしたし、「どうせ悪口を言っているんだろ」みたいな卑屈な気持ちになっていましたね(苦笑)。でも、それからマカオGPのフォーミュラBMWとかに出たりして、外国人とも話せるようになったと思いますし、今だったらそこまでメンタル的にやられるということはなく、ハングリーにやれるのではないかと思っています。

Q:GP2で戦っている松下選手がハンガリー戦のレース2で優勝を果たしましたが、そうしたことに対して悔しさだったり、焦りの気持ちはあるのでしょうか?

野尻:それはないですね。

Q:それはなぜでしょう? 松下選手や、スーパーフォーミュラで上位争いをしているホンダ陣営の野尻選手や山本選手は、F1のシートに近いドライバーなのではないかと見ている方も多いと思います。

野尻:僕個人としては、もちろん山本選手は常に速いと思っていて、あの人よりも速く走るのはすごく難しいという認識です。そして、松下選手も僕の中では同じ認識なんですね。彼がSRS(鈴鹿サーキットレーシングスクール)に入ってきた当初、僕も(講師として)一緒に走ったりしていたのですが、生徒の時からすごく速かったんですよ。それにもともと、カートで松下選手が5歳くらいの頃から知っていて、速いと認識していましたしね。

Q:では、昨年松下選手が全日本F3でチャンピオン獲ったことも、ある種当然だといった感覚もあったのでしょうか?

野尻:驚きではなかったですね。僕じゃ獲れないけど彼なら獲れるなっていう、そういう客観的な感覚もありました(苦笑)。とは言え、F3で僕が3年目、松下選手が1年目だった2013年は、すごく嫌でしたね。「こいつに負けたら僕は本当に終わる」と思っていました。でも、彼がGP2へ行くと決まった時は、そのまま結果を残してトントン拍子でいくだろうなという予想もしていました。そういう意味では、僕としては今この場でやれるだけのことをやって、それでチャンスに手が届かなかったら、しょうがないだろうという感覚ですね。

Q:ちなみに野尻選手がF1にステップアップしていくとした場合、GP2を踏んでF1なのか、スーパーフォーミュラからF1へと進んでいきたいのか、理想としてはどちらなのでしょうか?

野尻:後者がいいですね。仮にスーパーフォーミュラでチャンピオンを獲ったからGP2へと言われても、GP2の方が上なのかなという話ですし。

Q:今後、F1へのチャンスをつかむためにも、ホンダの“エース”と呼ばれるような存在を目指していくことになるかと思いますが、そのために必要なものはどのようなものだと考えていますか?

野尻:まだ、速さも強さも上手さも、足りているものがないんじゃないかなと思っています。スーパーフォーミュラにはスーパーフォーミュラの難しいところがあるし、スーパーGTにはスーパーGTの難しさがありますが、各メーカーでエースと呼ばれるような人たちは、何に乗ってもきちんと同じように仕事ができる。それが第一条件かなと思っています。

Q:自己評価として、かなり控え目ですね。

野尻:でも、今スーパーフォーミュラでいちばん速いクルマは、僕たちのクルマなんじゃないかなと本当に感じているんです。だとすれば、それで「ポイントを獲りました」とかのレベルではダメなのではないかなと。

Q:野尻選手自身は、ドライバーとしてまだ伸ばせる部分があると感じているわけですね。

野尻:伸びしろは未だにあると思っています。伸びるかどうかは別として(苦笑)。でも、今僕が感じているのは、僕自身からしたらすごく難しいことで、例えばアウトラップでは、思い切っていけるタイプが速かったりすると思っているのですが、僕はそういうタイプじゃないんですよ。確実に。

Q:それは、外国人ドライバーがそうした状況に強いとか、そういうこととはまた違うのでしょうか?

野尻:それ以上ですね(苦笑)。なので、そこをまず“並”にもっていかないと、というのはすごく感じています。今はクルマも速いし環境もいいので、なんとなくごまかせているんですよ。それと、それが勝ち負けに影響するレースがないんです。例えば僕がトップ走っていて、後ろにJP(デ・オリベイラ)が1秒差くらいで走っているという状況があったとして、僕が先にピットインしたら、その後相手のピットインで逆転されてしまったなんていうことがあるかもしれない。そういうところがまだ足りないんです。試行錯誤しています。

Q:今後もし、そういう状況になったら、読者は「野尻選手、大丈夫かな?」と思って見てしまうかもしれません。

野尻:その時は、ぜひ応援して下さい(笑)。

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 冷静すぎるほどに現状を客観視し、ライバルの優れている点から自らの弱みまで、どこまでもあっさりと語る様子は、一般的な“レーシングドライバー像”とは異なる。今年で26歳ながら若手と言われることに対しては「逆に年齢がごまかせてうれしいです」と笑った野尻だが、この独特のスタイルで“やれるだけやって”、どんなチャンスをものにしてくれるだろうか。

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