2014年のF3マカオGP。F1を目指す世界中の若手が集まるこの激戦のレースで、キラリと光る存在感を示した日本人ドライバーがいた。金丸悠、現在21歳。日本の四輪界ではあまりその名を知られていなかったドライバーだが、F1ドライバーを目指し13歳で単身渡欧。2011年、17歳の時にカートの世界選手権で日本人初優勝を成し遂げた金丸は、今もなおヨーロッパに拠点を置きながら、F1への階段を一歩ずつのぼり続けている。
このコラムでは、そんな金丸が単身ヨーロッパで戦うドライバーとしての苦労やこぼれ話などを、自分自身の言葉でお届け。第3回は、金丸のトレーニング事情などを中心に、スペインでのひとり暮らしの模様をお伝えします。
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みなさん、暑い日が続いていますがお元気ですか? バルセロナは日本の夏に比べて湿気が少ないので涼しく感じ、過ごしやすいです。ですが、どこにいても体調管理は重要、夏風邪などひかないよう体調管理をしっかりとしていきたいですね。
今回のコラムのテーマは“トレーニング”。日々のトレーニング内容やオフの過ごし方など、日本とヨーロッパにさほどの違いはないかもしれませんが、僕自身のトレーニング内容などをお届けします。
●週4〜5日の日常トレーニング
普段のトレーニングは週に4〜5日ほど近くのジムに通っています。普段は週に5日間、スペイン語の語学学校に通っているのでそれが終わってからトレーニングに行くというスケジュールです。1日の流れで言うと10時から13時が学校、それからお昼ご飯を食べて15時か16時にはジムに行くという日々を送っています。
バルセロナの街の中はものすごくジムが多いです。小さなジムからプール付きの大きなジムまでさまざまです。これだけジムが多いので、それぞれのジムの人の量はそこまで多くないかなと思いきや、15時ごろまでパンパンです。スペインの人は仕事と仕事の合間にあるシエスタと呼ばれる長めのお昼休みを使ってトレーニングをしているんですね。この時間帯にジムに行ってしまうと使いたいマシンが全然使えないので、いつも避けています。
トレーニング内容は毎回1時間の有酸素運動と、筋力トレーニングを1〜1時間半くらい。有酸素運動は基本的にランニングがメインで、たまに『ローウイング』という船を漕ぐようなマシンやサイクリングマシンを使っています。そのあとは筋力トレーニングと体幹トレーニングを日替わりで交互にやっています。筋トレは首から肩、腕、腹筋、背筋、下半身と一日で全体を鍛えています。
体幹トレーニングはドライバーにとってものすごく重要です。コーナーを曲がるときのもの凄い遠心力がかかる中、少しもぶれずに繊細なアクセルワークやブレーキワークなどの操作をしなければいけません。それに耐えられる肉体を身体の芯から鍛えるため、体幹トレーニングが重要になります。
ただ、「とても重要」ということは理解しているのですが、実は何回やっても体幹トレーニングを好きになれないんです(苦笑)。マシンを使った筋トレのように回数をこなすのではなく、時間を計りながらインナーマッスルを鍛え上げるので、辛さがじわじわと湧いてきます。それがなんともいえないくらい、精神的にきついですね。
実はジム内での有酸素運動も苦手です(苦笑)。マシンの上で動いているだけですから周りの景色が変わらず飽きてしまうんですよね……。かと言って、外へランニングをしに行くこともあまりしないんですけどね。バルセロナの街は信号が多くてランニングにはあんまり向いてないと思うんです。海の方まで出ると潮風が気持ちよくて良いランニングコースになると思うのですが……。とりあえず今はマシンの上で動いてばかりです。
景色が変わらない退屈な中でも集中することで精神的にも強くなれるかなと、イメージトレーニングも兼ねて頑張っています。ランニングマシンで走っている時は音楽を聴きながらマシンについているTVをつけてサッカーなどを観ていますが、ただただ無心になろうとしてるので情報はほとんど頭に入っていません。
トレーニングメニューに関しては、Racer Fit(レーサーフィット)というドライバー専門のトレーニンググループがあり、その担当トレーナーがメニューを作ってくれています。トレーナーはマドリードに住んでいるので日々のトレーニングは見てもらえませんが、毎週日曜日にトレーニングメニューを写真付きのメールで送ってくれます。そして月に1回程度マドリードに行き、トレーナーと会ってトレーニング正しくやっているか、サボらずやっているかどうかなどをチェックしてもらっています。
●栄養管理は自分で
食事や栄養補給についてはそこまでこだわりはなく、昼に腹もちの良い炭水化物を取って、トレーニング後の夕飯では高タンパク低カロリーの鶏肉を重点的食べるといった感じです。お昼も夜もだいたい自炊をしていて、昼はパスタや白米+おかず、夕飯でよく作るのは鶏肉をトマト煮にしたものが一番多いです。作り置きできるものだと翌日も食べられるので、こういうものが基本的に多いです。こっちではレストランが開くのが20時を過ぎてからで、トレーニングが終わるのが18時ごろ。お腹が空いて2時間も待てないので自分で作って食べています。
プロテインやサプリメント類はほとんど使っていません。スポーツドリンク用のパウダーを水に混ぜてのむくらいでしょうか。ちなみに好きなスポーツドリンクは『Amino Vital(アミノバイタル)』のクエン酸チャージです。どちらかというと甘い系というより酸味の強い物の方が好きなので、日本に帰った時に買いだめして持ってきています。
●年に1度の“キツすぎる”メディカルチェック
今年で3回目の受診になるのですが、年に1度、メディカルチェックを受けています。今年は5月のエストリル戦の前に受けてきました。場所はマドリードの郊外にあるジムで、バスケットボールコート、トラック、スイミングプールなどメディカル施設が複合しています。
ここはマドリードのプロバスケットボールチームのホームコートがあり、僕もメディカルチェックの時に、それらしき背の高い選手たちとすれ違いました。内容は体力測定と身体測定、体力測定では13種類以上の運動を行って運動能力を測定し、身体測定では身長や体重など基礎データの他に最大心拍数を測ります。
体力測定は自分の限界まで行うので、終わったあとはからだ中がプルプルし、くたくたになります。その直後に身体測定を行うので、辛さはさらに倍増です。
細かい数値までは聞かなかったのですが、今年はフォーミュラ・ルノー3.5のドライバーよりスコアが全体的によかったと言ってもらえました。このテストの結果をもとに、トレーナーが1年間のトレーニングメニューを考えてくれます。
身体測定は、先生がいくつか質問をしたのち身長や体重、体脂肪率を測ります。なぜかここでは機械は使わず、先生が腕、胴回り、脚の皮の厚さを謎の物差しで測って計算して率を出すという方法をとっています。肉をつままれて、1カ所1カ所の厚さを測るという行為でとても不思議な感じなのですが、僕が特に納得がいかないのは、その手動計測だといつもより体脂肪率が多いんです。ふだん機械で測ると9%なのに、その先生が測る方法だと12%と診断されます。
なぜ手動なのかわかりませんし、さすがに12%は腑に落ちません。ちなみに、体重を計るときも機械を使わず、よくボクサーがウエイトチェックの時にするような、重りを吊るしていく方法をとっています。ジムの設備は最新鋭で充実しているのに、なぜこのあたりだけアナログな方法なのかは本当に謎です。
話は逸れてしまいましたが、これらの測定が終わった後、最後の測定、最大心拍数を測ります。身体中に心電図と心拍数を測るための機械と肺活量を測るためのマスクを装着し、その状態でランニングマシンの上で走ります。
徐々にスピードを上げていき、最終的に自分の心拍数の限界値を測ります。これがまたかなりつらく、意識が遠のきそうになった時にストップします。
●怒られてばっかり(!?)なオフの過ごし方
オフはだいたいフットサルをしに行っています。家から徒歩20分くらいのところに公園があり、週末はフットサルコートが解放されています。そこに日本人の友達と一緒に行き混ぜてもらっています。スペインはサッカー大国、うまい人ばかりで、僕はいつも怒られまくってます(笑)。でも、いいプレーをしたときは褒めてくれるので、やる気も出るんですよね。
なんだかオフでも体を動かしてばかりにみえますが、たまにはビーチに行って昼寝をしたりもしています。バルセロナのビーチは人口で埋め立てられたものなので、整理されていて綺麗です。ただ今の時期になると人がいっぱい。ほとんどの人がお酒を飲みながら身体を焼いたりしています。僕はお酒がものすごく弱く、まったく飲まないでただ寝ているだけなのですが、昼から飲みながら気が向いたらちょっと泳ぎに行って、という様子は少し羨ましさも感じます。
そんなバルセロナでのオフを切り上げて、この夏は一旦、日本に帰ってきています。8月はレースがないのでのんびり過ごしていますが、次回はそんな夏休みの過ごし方も交えてご紹介したいと思います。みなさまも夏の暑さに負けず、よい夏休みをお過ごしください。
Photo/Yu Kanamaru, Yoko Makino