壁際ドライビング感覚をつかんでいくためには、時間(周回数)がどうしても必要なサーキット・ジル・ビルヌーブ。今はコース管理が厳しくレンタカーで自走コース下見ができないが、ちょっと前までは水曜に空港から直行し作業車の合間を縫いながら夕方に何周も走れた。
レコードラインをトレース、縁石にタイヤをわざとひっかけるとその高低差(ショック)を市販車でも感じる。けっこうブラインド・コーナーがある。自分にはFP1、4コーナーで右リヤをヒットしてしまったビアンキのようなことはとてもできない。ここは実際TV画面印象よりかなり下っていて右~左の切り替えしで、先は何も見えない。
有名な最終コーナー、シケイン状「チャンピオンの壁」に優るとも劣らず4コーナーの壁は第2の難所だ。コース幅はもっと狭く、タイヤバリアなど置けない(置いたらもっと幅は狭くなる!)。印象としては「F1世界一狭いカーブ」がこの4コーナーだ。
初日FP1トップにきたアロンソに気迫を感じた。最速メルセデス・マシン&PUを、今のフェラーリ・パッケージで抜き去ることなど不可能なのは彼なら充分に分かっている。それでも立ち向かっていく攻撃心がありありと見えた。開幕戦オーストラリアGP、中国GP、そして今週、7戦中3回初日FP1トップ。いきなりすべてのコーナーで攻撃モードに自分自身を追い込んでいくアロンソの走りにフェラーリのエンジニアスタッフたちは“何か”を感じるべきだ。
最近スクーデリアにもサラリーマン的な“大企業体質”が蔓延しているらしい。予算はあるのに“ヒット商品”=“アップデート”を生み出せず他のコピーばかりが目につく。
カナダGPに「Bバージョン投入」とイタリア・メディアは盛り上げてきたが、それは3か月前にショックを受けた社内エンジニアがまわりを真似て作り込んだモノに過ぎない(失礼)。独創アイデア商品が生まれてこないやりきれなさ……それを呑み込み壁際まで攻めるアロンソ。そしてライコネンも何度かブレーキロックしながら、繊細な自分感覚に妥協することなくオーバーランを繰り返した。
意味あるプレイだ。ああやってライコネンはアロンソとは違うアプローチでドライビング・リズムを整えていく。マイナートラブルで周回を許されないと、彼はどうしても時間がかかるタイプなので自分自身のモティベーションも冷える。ご存じの“アイスマン”性格を“ホット”に加熱させるには、彼好みに仕上げるためにも些細なトラブルをなくしてやること。とてもシンプルなスタンダードな流れをつくればいいのだ。
FP2は1位ハミルトン、2位ロズベルグ、3位ベッテル、4位ライコネン、5位アロンソ。0.583秒差のこの5人並びはマシン力を加味しても余りあるドライバー力を如実に表す。
“カナダ男”ハミルトンが意地の初日トップ。「コース外での速さ」追求に賭けるロズベルグは、フライデー・ナイト・ミーティングに傾注する2位。コーナリング速度で群を抜いていた3位ベッテルはRB10セットアップをさらに変えてくるだろう。直近レッドブルに対抗するフェラーリ勢、4位キミに先行された5位アロンソは長いディスカッションに没頭し、アイスマンは「このままでいいよ」といつものようにさっさとホテルに帰ったはずだ。