なかなか浮上できないレッドブルに、モナコで千載一遇のチャンスがめぐってきた。首位から転落したルイス・ハミルトンを攻略すれば、表彰台に上がれる。セーフティカーを機にスーパーソフトタイヤに交換したダニエル・リカルドは、僚友ダニール・クビアトに道を空けてもらい、終盤に賭けた。無線交信から、彼らの戦いをお伝えしよう。

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「後ろのダニエル(リカルド)は新しいタイヤを履いていて、違う戦略だ。いいな?」

 73周目、ダニール・クビアトに無線が飛んだ。担当レースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーズから“チームオーダー”の発令だ。

 マックス・フェルスタッペンの事故によるセーフティカー導入で、フレッシュなスーパーソフトタイヤに交換したばかりのリカルドには勢いがあった。71周目のレース再開と同時に5番手のキミ・ライコネンを追いかけ、72周目のミラボーでインに飛び込み、左フロントタイヤをライコネンの右リヤに接触しながらも前に出た。

「見たか? (リカルドが)僕を押し出した! これが許されるなら最高だな!!」

 ライコネンは無線で怒りを露わにし、リカルドとの一件は審議対象となったが、ペナルティが科せられることはなかった。

「楽しかったよ! 僕は自分が終盤にアタックすべきポジションにいることはわかっていたし、おかげでレースをエキサイティングなものにできたと思う。リスタート直後にキミの様子を見ていたらターン5でタイヤをロックさせていて、接近できたんだ。だから、その次のラップで仕掛けた。確かにギリギリだったけど、モナコでは接触なしにオーバーテイクすることは難しいし、2台ともコーナーを抜けることができた。楽しんだよ」とリカルド。

 これでリカルドの前は、チームメイトのクビアト。グリッドはリカルドが前だったが、スタート直後の1コーナーでタイヤをロックさせながらもインに飛び込んで4番手を奪い取っていた。

 クビアトは中国GPでリカルドにポジションを譲るよう指示するチームオーダーに対して「トウ(スリップストリーム)を使って抜いてくれよ」と反論し、即座に譲らなかったことがあった。それだけに今回も緊張が走ったが、すでにチームはその後の展開まで両ドライバーに対して言い含めていた。

「ダニエルはスーパーソフトを履いていたからキミを抜くことができた。だから我々は2台の順位を入れ換え、前で争っている2台(セバスチャン・ベッテルとハミルトン)にアタックできるかどうかを試したんだ」(クリスチャン・ホーナー代表)

「前を狙うために(クビアトの前に)行けるぞ」

 リカルドの担当エンジニアのサイモン・レニーがそう伝え、リカルドはトンネル出口からヌーベルシケインで労せず4番手に上がった。今季まだ一度も手が届いていない表彰台を獲りにいくために、チーム一丸となった戦略だった。

「早めに前の連中にくっついていけ」

 最終ラップまでにハミルトンかベッテルを攻略できなければ、クビアトに順位を返す。それがチームプレイの条件だった。

 しかし、新しいスーパーソフトを履いたハミルトンが、30周以上も走っているソフトタイヤのベッテルを抜きあぐねるほど、モナコでのオーバーテイクは難しい。リカルドも前の2台を射程圏に捉えることは、なかなかできなかった。

「ダニエルはどうなってるの?」
「心配するな、自分のレースに集中しろ」

 クビアトの心配をよそに、最終ラップのセクター3でリカルドは表彰台をあきらめ、7秒以上、大きくペースダウンしてクビアトに4位を譲り返した。

「チームが前に行けと言ってくれたんだ。表彰台へ割って入るためにね。でも、それがうまくいかなかったら最後に彼に譲れと言われていた。これもある種のチームワークだし、僕らはやれるだけのことはやった。最後にハミルトンを捕まえられればと思ったけど、十分に接近することはできなかったから、彼にポジションを返したんだ」

 昨年はリカルドと3勝を挙げたレッドブルが、今季まだ一度の表彰台すら獲得できないでいる。しかし、パワー不足という弱点が表われにくいモナコでは、チーム一体となって、その寸前まで行った。これが4度の王座を獲得した元チャンピオンチームの底力というものだ。

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