メルセデスAMGが圧勝した2014年。それは、2010年から続いていたレッドブル時代の終焉も意味していた。しかし、昨年のコンストラクターズ選手権でメルセデスAMGに次ぐ2位だったのはレッドブルで、さらにメルセデスAMG以外で勝利を挙げたのも彼らだけだった。
連覇はならなかったものの、惨敗というほどの悪いシーズンではなかった。しかも、レッドブルが王座を取り逃がした最大の原因は、チーフテクニカルオフィサーのエイドリアン・ニューエイが製作したマシンにあったわけではない。信頼性とパフォーマンスが低かったルノーのパワーユニットにあったのだ。したがって彼は2014年マシンのRB10を正常進化させてもよかった。しかし、それでは納得しなかったのだろう。ニューエイは、2015年マシンRB11のフロントからリヤまで、デザインを一新して登場させてきた。
ノーズの形状が昨年と異なっているのは、レギュレーションの変更に伴うもので、先端に突起物を設ける処理は昨年と同様だ。ただし、この突起物はRB10ではスリットを設けて空気をノーズ下に流す入口の役目も果たしていたが、RB11ではスリットは確認できていない。
注目すべき変更点は、フロントウイングで跳ね上がった風を受けるフロントサスペンションである。プッシュロッド方式や前方から見て、やや「ハ」の字に見えるサスペンションの取り付け方法は昨年と同じだが、それまで上下のサスペンションの中間付近に存在していたステアリングロッドがアッパーウィッシュボーンとほぼ同じ高さまで引き上げられた。
現在のサスペンションは単なる足回りとして存在しているわけではなく、空力パーツの役割も与えられている。今回の変更もステアリングそのものの機械的な理由というよりは、空力的なメリットを追求した末の結果であることは間違いない。
RB11のもうひとつの変更点は、サイドポンツーンである。ニューエイは昨年のRB10でもサイドポンツーンの下側を大きくえぐる、いわゆるアンダーカットと呼ばれるデザインを採用している。これは前方中央から流れてきた風をキールで受けた後、サイドポンツーン下側を伝わせリヤから排出することで、ディフューザー効果を上げてダウンフォースを稼ぐという仕組みだ。
今回のRB11では、このサイドポンツーンの下側をさらに大きくえぐってきたのである。これは明らかにルノーのパワーユニットが大きく改良されている証拠だ。そのことを物語るのは、排気管出口の高さが変更されていることだ。RB10ではテールランプより排気管1本分上から出ていたものが、RB11ではテールランプの頂点と排気管の下端が同じくらいの高さにまで押さえられている。
それに伴って、昨年まで排気管の下に設けていた、いわゆる「モンキーシート」と呼ばれる小さなウイングをなくし、代わりに排気管の上に備え付けたのである。排気管の出口の位置が低くなったことで、リヤウイングとカウルとのスペースが広がり、リヤウイングの下を通過する空気の流れがスムーズになっていることは容易に想像できる。
つまり、昨年の覇者メルセデスAMGが正常進化型のマシンであるのに対し、レッドブルは選手権2位だったにもかかわらず、かなりアグレッシプに進化させてきた印象が強い。そして、その進化が誤った方向を向いておらず、かつルノーのパワーユニットが改善されているとすれば、昨年よりもメルセデスAMGとレッドブルのギャップは縮まるに違いない。
ただ、1点気になるのは、レッドブルのフロントウイングの高さだ。テスト走行しているレッドブルの写真の中には、明らかにライバルチームに比べて地面とフロントウイングの距離が短いものがある。そんな中、テスト2日目には、トロロッソから移籍したてのダニール・クビアトがコースオフした際に、フロントウイングにダメージを負った。詳細は明らかになっていないが、地面とのクリアランスにも、ダメージを受けた遠因があったのではないだろうか。
もちろん、レッドブルがレギュレーションを無視してフロントウイングを下げているとは考えにくい。おそらく、ニューエイはフロントサスペンションに荷重がかかったときにフロントのダウンフォースが発生しやすくなるような工夫を施しているのだろう。これに関しては、今回のテストサーキットであるヘレスは高速コーナーが存在しないので、次のバルセロナでRB11がどんなパフォーマンスを披露するか、引き続き注目したい。