F1速報モバイルサイトで好評連載中F1うんちく講座。今回オフシーズン計5回の限定コラムとして、虎之介選手、一貴選手、可夢偉選手の元マネージャー有松さんにF1界の気になる裏事情を解説して頂きました!
第2回:1チームに2台で参戦するのはなぜ?1台参戦は不可?
これは単純なことで、興行主たるFOM(F1商業権管理団体)と全チーム間の同意事項である通称「コンコルド協定」でそう決められているからです。
この同意事項の元、参加チームは全戦において2台を走らせることに合意しており、1台だけ走らせることは同意事項に違反することになるのです。ロシアGPの時のマルシャのようなやむを得ない事情及び情状酌量の余地があると認められた場合を除いて、同意事項に基づいて、全戦で2台を出走させるわけです。
では、なぜ1チーム2台なのかというと、それは2台走らせる方が、チームにとっては、1台よりも、そして3台よりも、効率の良い方法だからです。実際はどのチームもスペアモノコックを現場に用意しており、スペックは別として、3台目のマシンを組み上げることは可能です。
サードカー案は現実的か
しかし、単純にスペアカーを用意するのと、それを走らせるのでは事情は全く違ってきます。
まずもう1台を走らせるとなればそれだけスペアパーツも多く必要になります。走行すればパーツは消耗しますし、どんなパーツにも寿命があるので交換はしなければなりません。
エンジンの数からギアの枚数に至るまで、現場に用意しなければならないパーツの数は跳ね上がるのです。となるとパーツ製造に必要な納期も変わってきますし、それは制作費にも跳ね返ってきます。
それに加えて、想像は難しいでしょうが、実は、パーツが占有する物理的な体積と重量が大幅に増えます。これが、直接的に輸送に関わる経費を飛躍的に押し上げます。
そしてなにより、1台のクルマを走らせるためにはレースエンジニアからメカニックに至るまで10数名のスタッフが必要です。特にマシン運営の要である上級エンジニアはF1ドライバーと同じ数しかいませんから、現在、各チームが3台目を(2台のレースカーと同じ技術レベルで)走らせるだけの人材がいないのです。
もし仮にサードカー案を実現しようと思えば、まず2台分で20数億円とも言われるパワーユニットの代金が約1.5倍に跳ね上がります。スペアパーツの制作費も1.5倍になります。さらにスタッフの数も増えますし、その旅費も必要になります。
現在のF1界には、これだけのコスト増を受け入れてまでサードカーを走らせる余裕のあるチームはないでしょう。ですから、現状、ほとんどのチームが「現実的では無い」という姿勢を見せているわけです。
とはいえ、不測の事態が発生し、現同意チームが参戦不能となり、仮にグリッドに並ぶ台数が、ある数字を下回る可能性が発生した場合、特定のチームが出走台数を増やして、グリッド数を確保する案は、その実施条件やフェアネス性については常に議論されていて、昨今は、その深刻度を増している状況です。
有松義紀(ありまつよしのり)
1990年代から国内外のレース界に関わり、高木虎之介のマネージャーとしてF1界へ。以降、99年のホンダF1参戦プロジェクトに携わった後、高木とともにCART、INDYの世界に身を投じたが、2005年からはトヨタの若手育成プログラムTDPでヨーロッパにおける若手ドライバーやチームとの法務関連業務を担当。
中嶋一貴と小林可夢偉をF1にデビューさせ、トヨタがF1から撤退しTMGとの契約が解消されてからも12年まで可夢偉のマネージャーを務めた。国内外のレースで活躍するアンドレア・カルダレッリの発掘・育成も氏の業績のひとつだ。