私はフェリペ・マッサがザウバーのドライバーだった時からのファンで、ずっと彼を見守ってきた。ブラジルの裕福な家庭に生まれて何不自由なく育ってきた彼だが、どこかちょっと影があって、いつもはにかんでいる感じだ。普段はとてもシャイな人間。そんなマッサがレースになると気持ちが高ぶるのか、結構激しいレースをするのだから面白い。脳味噌が戦闘態勢に入るとアドレナリンが出て、自制が効かなくなるのかもしれない。

 もちろんマッサはトップクラスのドライバーだが、チャンピオン・タイトルを獲ったドライバーと比べると常に一歩下がったところにいるようで、応援する側としてはもどかしさを感じることがある。そんな彼だからフェラーリでミハエル・シューマッハーのナンバー2としての損な役割を与えられたのだが、その役割を果たした後でいつもそのことが自分の中で怒りの発端になるようで、どうも不器用な生き方しかできない人間だと思わざるを得ない。最初から「ナンバー2待遇は嫌だ」と撥ね付ければいいのにと思うのだが、そうはしない。自分に自信がないのかもしれない。

 そんなこんなで長い間フェラーリでナンバー2に甘んじていたマッサだが、今年ウイリアムズに移籍してやっとナンバー1待遇を手に入れた。チームメイトは昨年デビューのバルテリ・ボッタス。いよいよ経験に裏付けられたベテランの力を発揮出来ると、マッサは喜んだに違いない。

 ところが、そのボッタスが案外手強かった。手強いだけでなく速い。現実はそれほど安泰ではなかったというわけだ。だから、オーストリアGPで久しぶりにポールポジションを獲得したときには、恐らく天にも昇る気持ちだったはずだ。しかし、レースではボッタスに3位表彰台を奪われ、自身は4位に甘んじた。そこで彼が感じた事は、自身の能力の低下以外の何ものでもなかったはずだ。もちろん5年前の事故(2009年のハンガリーGPで、他車から脱落したパーツがヘルメットを直撃。シーズンの残り全戦を欠場することとなった)以来、彼が力の低下を自覚していたことは容易に想像できる。それでも、ギリギリのところで踏ん張ってきたのに、今回は若い新人に早速表彰台を奪われて、涙が出たんじゃないだろうか。

 マッサは人が良すぎるんだろう。あるいは若い時に持ち得ていた激しい闘争心が鈍化したのかもしれない。どうしてもコイツにだけは負けたくないと歯を食いしばり、走路妨害すれすれの走りをしなければF1では勝てないどころか、順位はどんどん低下する。そうした状況に打ち勝つには、強烈な闘争心を持っていなくてはならない。しかし今のマッサはその気持ちを失ってしまったように思う。

 なぜだろうかと考えてみたら、こんな推論にぶつかった。「スポーツ選手は競技前にはセックスをしない方がいいんじゃないか」という論だ。唐突な意見かもしれないが、それにはこういう理由がある。マッサは決勝前夜には必ず(奥さんと)セックスをするというのだ。マッサに直接聞いたわけではないが、この話はずっと以前からパドックでごく普通に話題に上がっている。

 スポーツ選手とセックスと言えば、映画「ロッキー」では、老トレーナーが試合前のロッキーに「女に近づくな。脚が衰える」と忠告する場面があるそうだ(私は覚えていない)。また、モハメド・アリも「試合前にセックスをすると闘争本能が消える」と言っていたそうだ(直接聞いたことはない)から、昔からの避けては通れない話題なのかもしれない。

 しかし、私はロッキーのトレーナーやアリのこの考えは間違っていると思う。マッサがレースのスタート30分前にセックスをしているわけではないし、実際に彼は結婚後も6回F1で勝っているからだ。恐らくその前夜にも彼は奥さんとセックスをしたはずだ(マッサは2007年末に結婚。その翌年には6勝を挙げている。つまり全11勝の半分以上は結婚後の勝利なのだ!)。他のスポーツでは「競技前にセックスすると気分が落ち着くので、無理に禁欲することはしない」と言う選手がいる。彼や彼女はセックスをしたからといって、競技に負けてばかりではない。

 では、なぜ彼はボッタスに負けるようなレースをせざるを得なかったか? それは彼がF1の世界で過ごしてきた時間の長さに関係があるのだろう。同じ世界で一定以上の時間を過ごすと、どうしても人間はその世界に対する興味を失って行く。F1における興味は勝つためのモチベーションに他ならない。その興味が薄れたら、とてもトップグループで遮二無二走り続けることは不可能だ。つまり、マッサはそろそろ次の人生を考えた方がいい時期に来ているのではないか、ということだ。勝てない戦いをするほど惨めなことはない。それはマッサが一番よく知っている。ゆえに、敢えて彼にそろそろ次を考えては、と言ってあげたい。

 ところで、マッサは長く一緒にいる奥さんとのセックスには、興味を失っていないのだろうか?

赤井邦彦(あかいくにひこ):世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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