赤井邦彦がF1のホットな話題について、鋭い論評を繰り広げる新連載「エフワン見聞録」

 今回の『エフワン見聞録』、前回に続いて小林可夢偉とフェラーリの事を書こうと思う。というのは、先日のマレーシアGPの折、フェラーリF1チームのステファノ・ドメニカリ代表に会って小林のことを尋ねたので、彼の声を独り占めするより皆さんにお伝えした方が良いと思ったからだ。勿論、ドメニカリ代表のことはよく知っているし、彼がウソをつかない人間だということは重々承知。ゆえに、彼が小林に関して話してくれた内容にはウソはないと信じている。ただ、ウソはないが、話してくれなかった事はあるかもしれない。何でもかんでも話してくれるというものではないことは、この世界に長くいると分かってくるものだ。

 で、ドメニカリ代表にいきなり小林の事を尋ねた。疑問に思っていたことは、小林は今年AFコルセというフェラーリのマシンを使うプライベートチームからWEC(世界耐久選手権)に参戦することが決まったのに、小林の契約はフェラーリからの発表だったこと。つまり、小林はAFコルセではなくフェラーリと契約したという点だ。フェラーリから、あるいはAFコルセから発表されたプレスリリースには、ドメニカリ代表と小林が握手している写真まで掲載されていた。ドメニカリ代表はフェラーリF1の責任者。AFコルセと小林の契約であれば、AFコルセの代表が小林と契約を交わすのが普通ではないか、と考えるのが普通だろう。そこで、その疑問点をドメニカリ代表に尋ねた。答えは次のようなものだった。

「小林はフェラーリとの契約です。そして、フェラーリのドライバーとしてAFコルセに送り込んだのです。ただ、ハッキリしておいて欲しいのは、F1に乗るという契約はかわしていないということです」

 AFコルセはプライベートチームといってもフェラーリのセミワークス的な存在。WECではフェラーリを代表してLM-GTE Proクラスを走るが、そのAFコルセでフェラーリ458イタリアを操るドライバーは、小林に限らず全員フェラーリとの契約となっているという。ドメニカリ代表は小林の他にもジャンカルロ・フィジケラ、ジャンマリア・ブルーニ、トニ・バイランダー、アンドレア・ベルトリーニ……といった名前を挙げて、全員がフェラーリとの契約でAFコルセに押し込んでいる、と語った。

 ドメニカリは、小林との契約は彼のマネージャーであるマリオ宮川との間で以前から話し合っていたという。

「もちろん、宮川は小林をフェラーリF1に乗せたかったと思う。我々は宮川とは以前から知り合いで、彼は小林のマネージメントを援助し始めてすぐに我々にF1ドライブのチャンスはないかとコンタクトを取ってきました。残念ながら我々は素晴らしいふたりのドライバーを擁しており、小林をそのラインアップに入れることは出来ないと返事をしたのです」

 ドメニカリ自身は小林の力をよく知ってはいたが、フェラーリF1に乗せるつもりはなかった。しかし、小林は2012年末に突然ザウバーから契約を切られ、2013年はどこのチームでも走ることが出来なくなった。それを知ったドメニカリは、小林がどんなクルマでもいいからレースをしたいというならフェラーリで走ってみたらどうかと宮川に提案。宮川は小林とその話を検討した結果、2013年はフェラーリの推薦でAFコルセに入ってWECを戦うことを決心した。これが小林がAFコルセで走る事になった顛末だ。

「小林は当初F1にこだわっていたようでしたが、そのF1にシートがなくて1年間レースから遠ざかるようなことがあるのは決して褒められたことじゃないと考え、GTレースでもよければ是非フェラーリで走らないかと誘いました」

 ドメニカリの提案はフェラーリと契約し、レースはフェラーリに近いAFコルセのマシンに乗るというもの。小林もフェラーリと契約できるなら前向きに考えるということで、結果的に小林はフェラーリと契約し、AFコルセでWECを走ることを決めたのだ。

 フェラーリとの契約は現段階では1年ということになっている。つまり、今年限りでフェラーリと小林の契約は切れ、小林は2014年に向けては再びF1チームにシートを求めて就職活動をすることになる。

 では、フェラーリは2014年に小林をドライバーとして採用する可能性があるのだろうか? ドメニカリはその質問にはこう答えた。

「現時点ではフェラーリのF1チームに小林を迎える計画はないです。今年はアロンソとマッサという素晴らしいドライバーがふたりいます。マッサは今年の末で契約が切れるが、彼が来年もフェラーリで走らないと決まったわけではありません。契約の延長があるかもしれないし、ないかもしれないのです」

「小林に関しては、あくまで2013年の契約で、その後のことは何も話し合っていません。彼にはWECのGT ProクラスでAFコルセが再びタイトルを獲得するために努力して欲しいということです」

 この厳しい条件でも小林はフェラーリでWECを走る事を選んだ。そこには、彼なりの考えがあるのだろうが、現時点では私は小林と連絡が取れていないので、彼の考えは知る由もない。できれば、WEC開幕戦シルバーストン6時間レースの現場で小林に話を聞いてみたい。

赤井邦彦(あかいくにひこ):世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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