IZODインディカー・シリーズ最終戦ラスベガスで発生した多重クラッシュから一夜明けた18日、クラッシュした15台の中の1台をドライブしていたポール・トレイシーが、今季限りで現役を引退する考えであると明らかにした。
2003年にCARTチャンプカー・シリーズでタイトルを獲得、チャンプカーとインディカーが統合されてからはインディカーで活躍を続けてきたトレイシーは、今回のラスベガス戦でもドラゴン・レーシングから参戦。予選26番手からスタートしたレースでは、多重クラッシュに巻き込まれたがケガはなかった。
一夜明け、CNNに出演したトレイシーは、今回のレースがきっかけではなく、それ以前から考えていたこととして引退を示唆。インディカー・シリーズの安全性について、今後オーバルコースでは、安全性を向上することを検討していかなければならないと語った。
「僕には長いキャリアがある。チャンプカー/インディカーで僕は20年以上戦ってきた。昨晩、妻は僕に『あなたには十分なトロフィーもあり、十分なお金もあるでしょう? これ以上レースをする意味はあるのかしら』と話してきたんだ。友人のひとりが命を落とし、彼の家族も知っている。これは僕が回答を出さなければならないクエスチョンのひとつだ」
「ダンはチャンピオンであり、二度のインディ500ウイナーだ。これはインディカーにとって悲劇であり、悲劇がより安全で、多くのことを改善してくれることを願っている。グレッグ・ムーア(99年CARTでのレース中に事故死)、デイル・アーンハート(01年デイトナ500で事故死)。そして今回のダン・ウェルドン……。ドライバーの安全性の向上については、いまもう一段階、上げる必要がある」とトレイシ−。
今回のウェルドンの死亡事故では、マシンが宙を舞いキャッチフェンスに衝突。トレイシーは、このキャッチフェンスの部分が今後検討されるべき部分だと語る。
「キャッチフェンスにはより改善できる範囲がある。オーバルコースでは、SAFERウォール(鉄と強化発泡スチロールで構成された衝撃吸収バリア)やHANSシステムによって著しい安全性の向上があった。シートもマシンもより安全になった。でも、ウォールに沿ったキャッチフェンスだけは過去100年も昔のままなんだ」
「これは個人的な考えなんだけど、防弾ガラスのような、強化プラスチックのようなフェンスを作ることはできないだろうか。現在のフェンスでは、マシンがそこに衝突してしまうと、バラバラになってしまうんだ」
一方、今回の事故では34台というインディ500よりも多いマシンが、高速トラックのラスベガスで戦うことが要因になったのではないかという質問に対し、トレイシーはラスベガスのトラック自体は世界トップクラスのクオリティがあり、SAFERウォールもフェンスも充分なものだったと語る一方で、多くの台数は要因のひとつだと語る。
「コースの1/4くらいにマシンがパック(集団で戦っている状態)になっていた。現在のインディカーは、NASCARのようにパックで走ることができるようにはなっていない。ホイール同士が接触してしまうと、もうどうにも制御することはできない。2012年、車輪の前後をボディワークで覆うニューマシンが導入されるのを待つしかない」
トレイシーはフェンスについて繰り返し改良を望む一方、ライアン・ブリスコは、将来に向けヘルメットが露出しない、クローズドボディの必要性をTwitterで語っている。