ロータスF1チームで昨年、ロマン・グロージャンを担当していたレースエンジニアの小松礼雄氏。今シーズンはチーフエンジニアに昇格してグロージャン、そしてパストール・マルドナドの2台のマシンでF1を戦います。

 厳しい資金難でレース以外の気苦労、そして物理的な問題に直面しているロータスチームと小松エンジニア。その厳しい状況でも、鈴鹿ではダブル入賞という好結果を残すことができました。実際に現場でエンジニアリングをまとめる小松氏は、どのように鈴鹿の週末を振り返るのでしょうか。今回はシンガポールと日本GPの2戦分をお届けします。

 F1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラム、第15回目の一部をお楽しみ下さい。

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小松礼雄コラム 第15回


資金難で苦しい中でのグランプリ
想定外の中で獲得した鈴鹿のダブル入賞

 今回はシンガポールGP、日本GPと連戦だったこともありまして、2戦まとめて振り返りたいと思いますが、シンガポールは良いことがなかったですね……(決勝12&13位)。イタリアGPでメルセデスの空気圧の問題がありましたが、このシンガポールGPからどのチームも空気圧を高めにせざるを得ませんでした。その影響は、ウチのセットアップにも若干の影響はありました。一番はロングランが辛くなるので、ロングランでとにかくリヤタイヤを傷めない方向に持っていかざるを得ないのですけど、それはセットアップでカバーしきれない部分があります。

 特にウチのクルマはダウンフォースが足りないし、リヤのブレーキ関係のオプションもいくつも持っているわけではない。そうするとタイヤにどれくらい熱を入れるかをコントロールするオプションがあまり使えないので、内圧を下げきれないことにもなります。他のチームは、もう少し引き出しがあると思いますね。ずっと開発を続けているチームや、メルセデスみたいなトップチームはいろいろ対策や想定ができるはずですけど、そのメルセデスにとってもシンガポールは想定外の出来事だったようです。

 ウチはロマン(グロージャン)が予選10位になりましたが、事前の予想でも10位に行けるか行けないかだったので、ドライバーが頑張ってくれました。それでもやはり、シンガポールのような低速市街地、モナコも同じですがリヤタイヤが滑ってオーバーヒートしてしまうサーキットは辛いですね。シンガポールのセクター3は全部リヤタイヤがオーバーヒートしてしまうコーナーが続きます。たとえばセクター3最初のアンダーソンブリッヂ後の14コーナー、この右のコーナーのブレーキングでリヤが出たり、トラクションでホイールスピンをさせたりすると、その後、1周が終わるまでリヤを冷やす合間がないので、リヤの性能が出せないままずっとタイムロスになります。

 また、シンガポールはサーキットの特性的に長いコーナーがほとんどなくフロントに荷重を掛けられないため、フロントタイヤに熱を入れにくい。ですので、フロントタイヤを1周目に上手く機能させるように持っていくためのアウトラップの準備、そしてセクター3でリヤをオーバーヒートさせないようにという2つの相反する課題があります。ですので、リヤの内圧は出来るだけ下げたい。だけど、ピレリのお達しによって下げられません。内圧の規制はダウンフォースが足りないクルマには特にキツイということになります。もちろん、内圧の規制が妥当な数値なら問題ないんですけどね。

決勝ではロマンが早めのピットストップになりましたが、これはポイントを獲ることが目標となったためです。スタートがあまりよくなくて1コーナーでも抜かれて、ロマンはオープニングラップを13番手で帰ってきました。シンガポールはコース上ではほとんど抜けません。順位を上げるにはライバルとまったく違うストラテジーでタイヤ選択や摩耗が全然違って、前のクルマのタイヤが死んでいる時には抜けますけど、それ以外はアンダーカットするしかありません。

 さらにさっきの内圧の話に戻るのですが、金曜日は赤旗がすごく多くてロングランがまったくできていなかった。それで全然ロングランのデータがなかったので、前の年のデータを基にタイヤのギリギリの周回数を探っていたのですが、1回目、2回目のピットストップができる限界は最後のスティント、最後のプライムタイヤで何周走れるかで決まるわけです。そこから逆算して戦略を考えるのですが、それが希望的な観測になってしまいました。というのは、内圧を高めにせざるを得なかったので、リヤの摩耗が予想以上に激しかったのです。

 ウチは第2スティントまでは大丈夫だったのですが、長めになった第3スティントでタイヤのグリップが落ちてきた時に、高めの内圧の影響で厳しくなりました。ニュータイヤの時はまだ内圧も比較的低く、そしてタイヤのグリップがあるのでそこまで大きな問題はないですし、もちろん、内圧をもっと低くできればそれにこしたことはないのですが、内圧が高いとグリップが落ちた時にはタイヤ滑らせるのを止められなくなる。そうすると、たとえば12周のタイヤと24周走ったタイヤで周回数で割っても1周ごとの摩耗レートが全然違ってしまいます。最後のスティントではロマンのタイヤがボロボロのかなり厳しい状況になって、乗っている方も大変だけど、あの時は見ている方も恐かったです。

 それでもひとまず、最後のスティントの終盤までは一応ポイント圏内を走れました。チェッカーまで2、3周のポイント圏内から外れたところでロマンのギヤボックスがアキレス腱みたいな問題を抱えて、鈴鹿で壊れてしまってはマズイのでリタイヤさせました。あとから見れば、トロロッソに抜かれた時点でもう一度ピットインするべきでした、そうすればまたトロロッソにアタック出来る可能性もあったかと思います。とにかく、今回はリスクをとり過ぎました、これは反省点です。

 チーム全体の状況ですが、イタリアでは資金不足の問題で搬入が遅れましたが、シンガポールでも問題はありました。シンガポールに行く直前まで貨物が出航しなくて、貨物が出るのがギリギリでした。あとは普通、水曜日の午後2時から仕事をするんですけど、結局水曜日、僕たちエンジニア陣でサーキットに来たのは僕と僕の上司だけになりました。と言うのは、準備がまったく整っていないからサーキットに来てもエンジニアは仕事にならないんです。僕たちは一応、エンジニアリングだけじゃなくて、他のこともまとめる立場にあるので来ました。他のエンジニアの人たちは水曜日はホテルで作業してもらったけど。それがもう一歩、ひどくなったのが鈴鹿です(苦笑)。

続きはF1速報有料サイトでご覧ください
「前代未聞となったサーキット入り」
「ライバル、フォースインディアとの直接バトル」
「鈴鹿のファンとイベントに来て頂いた方への感謝のことば」

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