10日、都内でインディジャパン300マイルの開催概要記者会見に出席した武藤英紀(ニューマン・ハース)が、集まったメディアに対し20分間質疑応答に回答した。

Q:まず、今年は新しくチームを移籍しましたが、3台体制の予定が1台になった。ここに苦戦の理由があるのですか?
武藤英紀(以下M):影響は確かにあります。でも、それを言っても言い訳に聞こえちゃうんですけどね。チャンプカー時代に8回チャンピオンを獲得した名門が1台に集中してくれるのは逆にメリットがあると思いますが、レースの週末、走り始めてからクルマの状態はすごくいいんですけど、練習走行の時間の詰めの時に、やはり人よりも多く時間がかかってしまうのはあります。

Q:複数台いれば、セットアップの方向をいろいろ試せると思うが、それをひとりでやらなくてはいけないのか。
M:試したいんですが、やはり限られた時間ですから。ひとつ、ふたつしか試せないんですよね。他の3台いるようなチームなら短い時間で済むし、もっとデータが集まるはず。そこでハンデはあると思います。

Q:名門ということで、過去のデータも豊富なのではないか。そういうところは活かせているか。
M:活かせてますね。過去のデータをベースにクルマを持ち込みますから、走り始めはすごくいい。でも、気温も違えば路面の状態も違うので、そこを合わせていくのにちょっと時間がかかります。

Q:今年、開幕戦からずっとロードとストリートばかりでやっとオーバルになりましたが、かなりいい走りをしていましたね。武藤選手が3年間戦ってきた中で、今季のようにオーバルが少ない年をどう感じているか。
M:もともとオーバル出身じゃないですから、ストリート、ロードが増えたのはいいことだと思います。チームもストリート、ロードでチャンピオンを獲ってきたチームですから、いいことだと思います。でも、予想に反してオーバルが速いですね(笑)。

Q:そう言う意味ではインディ500は期待できますが、手応えは?
M:手応えがあるとあまりいいことはないので……でも去年もチームはインディ500の予選で速かったし、カンザスでも決勝のマシンバランスは良かったので、うまくコンディションを活かしていけば期待できると思います。

Q:チームを移籍した経緯としては、本人が移籍したかったのですか? 4台体制のチームから1台のチームに移籍して、前の方がいいのか、今の方がいいのか教えて下さい。
M:今の方がいいと思います。そう信じたいですし、そう思っています。アンドレッティで走っている時の1年目はルーキーで、多くのことを学ばなければいけない。チームメイトの言うことも聞いたし、チームの言うことも聞いて受け入れていたんですけど、2年目になって自分の言いたい事を言いたい時に、どうしてもプライオリティというか、自分の方が速い時があった。でもそれをなかなか覆すことができなくて、それがだんだんストレスになったこともありました。やはりペンスキー、ガナッシに移籍できればベストでしたし、もちろん交渉もしたんですが、それが叶わなかった時に現状のベストがどれか? と考えた時にニューマン・ハースというのがあって、去年もてぎでも3位になっているし、ロードでも調子がいいという理由で決めました。……でもアンドレッティ、今年調子いいですね(笑)。

Q:去年ダニカ(パトリック)が勝ったときに「ダニカは勝つまでに5年かかったけど、僕は5年かからない」と言ってましたね。覚えてますか?
M:そんなこと言いましたっけ(笑)。そろそろヤバいですか?(笑)。でも、もう自然体で行こうと。勝ちたいのは当然なので、その気持ちをうまくコントロールして。人間欲が出てもいけないですからね。落ち着いてレースをしたいと思っています。チャンスはあると思っていますけどね。

Q:当然もてぎじゃなくても勝ちは狙っていく?
M:もちろん。『もてぎで』って言った方がこの場はキレイに収まりますけどね(笑)。もちろんすぐにでも勝ちたい。でも現状、トップチームと言われるガナッシとか、彼らの上に今すぐに行くのは現状すごく厳しいと思っています。だから、今は3位に自分がいることがすごく重要。そこにいけたらもっと上を目指したい。それがもてぎの頃だったらすごくいいと思いますけどね。別に3位を目指している訳じゃないんですけど、最低ラインとしてそこは見えています。

Q:佐藤琢磨選手が入って、すごくメディアなどから注目度が増している。そういうのが武藤選手にとってやる気のモチベーションになっていることはありますか?
M:もちろん。2002年に、僕が初めてフォーミュラ・ドリームに出た時に、彼がF1に出たんですね。常に憧れの存在でしたし、その人とレースができるのは本当に嬉しいし、刺激にもなります。

Q:インディでは先輩ですが、負けたくないということはありますか?
M:いや、先輩と言っても、彼はF1をはじめ経験がありますから。先輩なんて意識はないです(笑)。

Q:オーバルで最初に走った時は、いろいろと琢磨選手にオーバルの走り方をアドバイスしたと聞いてますけど。
M:ウソばっかり教えておきました(笑)。というのは冗談で、僕はそういうところはオープンでいたいし、お互いに切磋琢磨して上のレベルにいけたらいいと思います。最後にトップ争いができたら最高だと思います。

Q:でも最後に勝つのは自分?
M:どっちが勝ってもいいと思いますけどね。……でもまぁ……自分でしょうね(笑)。

Q:インディというレースはクルマもタイヤもエンジンもワンメイクですが、トップチームと、それ以外のチームとの差はどこから来るのでしょう?
M:(親指と人差し指でお金のマークを作って)……コレじゃないですかね(笑)。でもまぁ、トップチームは予算はありますよ。だから開発する能力も時間も注げますし、お金がないチームは限られた時間で開発しなければいけない。トップチームはずっと風洞実験をしてオーバルを速く走れるように開発してますし。あと、ダンパーのジャストがいいところが見つかってるんでしょうね。お金、お金と言っても聞こえは良くないですけど、実際それはすごく大きいと思います。

Q:クルマが違うのは、ウイング形状、そしてダンパーですか?
M:それと、その日によってダウンフォースのレベルを変化させて、スピードが伸びるようにしたり、コーナリング重視にしたりということはできますよね。あと、モノコックも個体差がありますから。本当かどうか分からないですけど、例えば彼らは10台モノコックを買って、実験していいものを選ぶことも出来ます。……ただ、あんまり言うとホント言い訳に聞こえますからね(笑)。そんなことはどうでもいいんですよ(笑)。やっぱりドライバーが一生懸命やって、運も味方につけなきゃいけないですから。

Q:1台体制について話題がありましたが、グラハム・レイホールがインディ500は父親のチームで出て、その後はニューマン・ハースに合流するという話がありますが。
M:いろいろな噂はありますけどね。チームの人もなかなかその部分は教えてくれないんです。もしかしたらグラハムがインディ500以降、ニューマン・ハースに加わるという可能性は無くはない、とは言ってました。

Q:それは武藤選手としてはウェルカム?
M:もちろん。彼はすごく速いし、チームメイトとしては最高だと思います。

Q:先週、カンザスでチームのブライアン・ライルズと話をしたんですが、彼は21年間アメリカでレースをしてきた人ですが、武藤君のことをベタ褒めしていました。彼とはどう仕事していますか?
M:ホントですか!? それカンザスで教えて下さいよ(笑)。そうすればモチベーション上がったのに(笑)。でも彼は大ベテランじゃないですか。彼と喋るのは緊張するんですよ。エンジニアではないのでクルマのことは話さないんですけど、有名なドライバーを育てた人ですから、話は聞くようにしています。よく例に挙げられるのが、ニキ・ラウダとかジャッキー・スチュワートとか……正直良く分からないんですけどね(笑)、とにかくワールドチャンピオンになるような人は、レースに対してそれだけしか考えていないんだと。『変わり者になれ』と言われましたね。なかなか難しいですけど、努力はしています。

Q:ツインリンクもてぎでは、インディジャパンで幼稚園から高校まで、幅広く子どもたちを招待して次の世代の子どもたちに伝える活動をしているんですね。ドライバーとして、次の世代に伝えたいことはありますか?
M:レースだけじゃなく、仕事を一生懸命やって結果を出すということが僕はすごく大事だと思うんです。僕がそれをみせられるのはレースだけですからね。一生懸命やって結果を出して、一緒に感動できたらいいと思います。そしてそれを見てくれた子どもたちがレーサーになりたいと言ってくれたらそれは最高ですし、何か夢を持ってくれたらいいと思います。

Q:ロジャー安川さんとは公私ともに仲が良いと聞いていますが、ロジャー選手が琢磨選手のスポッターになりました。何か関係に変化はありますか?
M:なんだか彼女を盗られたみたいな話ですね(笑)。でもロジャーは小さい頃から知っている先輩ですから、彼が琢磨さんのスポッターをやるのはいいことだと思います。なかなか本音を話しにくくなったかもしれませんね。でも、それはレースの世界だからしょうがないと思います。彼のロスの家に行ったときは一緒に食事に行ったりしていますし、そういう関係は大事にしたいと思います。

Q:先日、メジャーリーグの始球式に出たそうですが、いかがでしたか?
M:カンザスに出発する前日に、用事があって近所を運転していたんですよ。その時にチームの広報から電話がかかってきて、『明日ロイヤルズの始球式、ヒデキになったから』って言われて。『え〜っ!?』って思うじゃないですか(笑)。まずチームに言ってメカニックをひとり捕まえて、キャッチボールですよね(笑)。それで肩を慣らして向かいました。でも、ああいうマウンドに立つなんてなかなか無いじゃないですか。すごくいい刺激になりました。あの日はたまたま、ロイヤルズとマリナーズの試合の始球式だったんですよ。だからイチロー選手もいたんですが、僕はロイヤルズのゲストだったので、『マリナーズには話しかけないでくれ』って言われて(苦笑)。『でも日本人だからいいじゃん!』って思ったんですが、ロイヤルズの広報の人に『相手に話しかけられると私がクビになる』って言われて結局話せなかったんですが、練習やプレーも見られて、すごいと思いましたし、そういうところに自分が行けたということは、アメリカでのインディカーの扱いが日本とは違うな、というのを感じました。良い経験になりましたし、メチャクチャ緊張しましたね。

Q:野球繋がりで、シーズンオフに松井稼頭央選手とトレーニングをしましたがそのいきさつを教えて下さい。
M:松井稼頭央さんとは、2008年のケンタッキーのレースの時に、彼が2シーターのゲストに来たんです。もともとクルマに興味があったみたいで。そこで知り合いまして、その晩、ナイターに招待してくれて、そこから関係が始まりました。僕もトレーニングに興味があったので、頼んだら即答でOKが出ましたね。ホント行って良かったと思いましたよ。始球式でストライク投げられたので(笑)。
トレーニング自体の感想ですか? あ、翌日には中田英寿さんも来たんですよ(笑)。ああいうプロのアスリートの方と一緒にトレーニングできたおかげで自分に足りないことも分かりましたし、勉強になりました。そのトレーニングで学んだのは、体幹ですね。松井さんの走るフォームが、ダッシュでも上体がまったくブレないんですよ。純粋に見ていてカッコいいと思いましたし、あれだけの力が出せるのは、そういう普段からのトレーニングなんだな、と感じました。

Q:オフになかなかチームが決まらなかったときの心境を教えて下さい。
M:その間は松井さんのトレーニングもそうですし、個人的にもトレーニングしていました。ただ、やはりチームが決まっていなかったので不安は不安でしたね。交渉の経緯は逐一聞いていたんですが、そのたびに『大丈夫、大丈夫』って言われて(笑)。もう決まるよ、と聞いていながら年を越して、2月に入ってもまだ決まらなくて。最終的に決まったのが2月10日頃だったと思うんですが、オフで体は休まっているのに、気持ちは緊張というか、焦りみたいなものはありましたね。(交渉が)ダメになるとは思っていなかったです。11月に決まってくれていたら気持ちも楽でいいオフが過ごせたんですけどね。ずっと休まらないような……正直厳しかったですね。

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