パイクスピークで連日EVクラスのトップタイムを出している「MiEVエボリューションⅢ」だが、何に対してのエボリューションかといえば、それは三菱初の電気自動車であるi-MiEVだ。MiEVエボリューションⅢは完全なプロトタイプレーシングカーだが、その心臓部たるモーターやバッテリーはi-MiEV用のユニットを「エボリューション」させたもの。血は確実につながっている。
パイクスピークのスタートラインで、MiEVエボリューションⅢはまるで瞬間移動機のように音もなく鋭く加速する。その電気自動車独特の加速感は、実は軽自動車のi-MiEVでもレベルは違えど十分に楽しむことができるのだ。
i-MiEVの上級グレードであるXが搭載するモーターの最高出力は、軽自動車の上限である47kw(64PS)。注目すべきは最大トルクで、160Nm(16.3kgfm)と軽自動車としてはかなり図太い。数値としては高性能軽ターボの1.5倍ぐらいのトルクで、これがゼロ発進加速の鋭さと気持ちよさを生み出している。エンジン車のようにアクセルを踏んだ後にスロットルが開いて空気を取り込み燃料を噴き爆発させ、その排気エネルギーでターボを回して加給という遠回りなプロセスがなく、アクセルを踏んだ瞬間にモーターが間髪入れず最大トルクを発揮するのだ。このレスポンスの良さは一度知ってしまうとヤミツキになる。従来のエンジン車にはなかった、斬新な加速感と気持ちよさは一度は体験しておくべきだ。
i-MiEVの車重はリチウムイオン電池を多く搭載する関係で、Mで1070kg、Xで1090kgと軽自動車としては軽くはない。しかしモーターは重量に対する対応力が大きく、乗車人数が2人、3人と増えていっても加速感があまり鈍らないのがいい。そして、フロア部分に重量物である電池を搭載しフロントにエンジンがないことからマスの集中化と重心の低さが両立され、想像以上に軽快かつ安定性の高いハンドリングに仕上がっている。今ではもう生産中止となってしまったが、ベースとなったエンジン車のiもハンドリングは上々だった。このあたりのしっかり感とこだわりは、さすがランサーエボリューションを生み出した三菱といったところ。また、MiEVエボリューションⅢとの共通点を感じる部分でもある。
i-MiEVの数少ないマイナスポイントだった価格の高さと出先での充電に対する不安も、2009年のデビューから時間を経てかなり解消してきている。充電インフラは急速充電ステーションが随分と増え、高速道路のSAにも多く設置されるようになったので遠出も心配ではなくなってきた。また、価格に関しては去年の11月に一部改良が行なわれて設定グレードが変更になり、国からの補助金を摘要するとバッテリー容量10.5kWhで1充電走行距離120km(JC08モード)のMが245万9100円で補助金74万円を差し引くと実質約172万円、16.0kWhで1充電走行距離180kmのX が290万1150円で補助金85万円を差し引くと実質約205万円で購入できるようになった。エンジン搭載の軽の上級グレードと実質的な支払額はあまり変わらないレベルに下がってきたので、これは買い時かもしれない。エクステリアのデザインも古さはなく、いまだに新鮮味が感じられる。
i-MiEVは「クルマは楽しければいいんだ」という、あまりエコカーに興味がない人にも是非1度乗ってもらいたい1台だ。実際に自分でその加速感とハンドリングを体験してみれば、なぜパイクスピークでEVマシン、そしてMiEVエボリューションⅢが速いのかきっと理解できるだろう。