いたって普通の18歳のような幼さを見せるときもあれば、あまりにも堂々とした振る舞いで、世界のF1ファンを熱狂させるときもある。マックス・フェルスタッペンは、すでに15年近くのキャリアを持つ“大ベテラン”の最年少ドライバーだ。F1にデビューしてから目撃することができた彼の表情は、まだ1年ぶんと少し。その短い期間に刻まれた、鮮やかな印象を今宮雅子氏が描く。
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18歳のマックス・フェルスタッペンは、もちろん最年少F1ドライバー。トロロッソのチームメイトで21歳のカルロス・サインツと一緒にいると、ふたりは時々、3歳以上離れた印象を与える。フェルスタッペンの口調や態度に年齢なりの若さが顔をのぞかせるのに対して、サインツの落ち着いた立ち居振る舞いが──おそらく21歳という年齢以上に──大人っぽいからだ。
「でも、マックスと仕事をしている最中に『あ、まだ18なんだな』と感じたことは一度もないよ」と、テクニカルディレクターのジェームス・キーは言う。
「プロとしての仕事や会話において、18歳という年齢を感じることは、まったくない。隣に座って雑談なんかすると『やっぱり世代が違うな』と気づくし、彼らが何の話をしているのか僕にはさっぱりわからないこともあるけれど(笑)」
17歳でのF1デビューには賛否両論さまざまな意見が唱えられたが、キーは冬のテストの段階で、すでにフェルスタッペンの仕事ぶりに感銘を受けていたと言う。
「我々が本物の2015年マシンを投入したのは3回目のテストだったけれど、あのときのレースシミュレーションは本当に素晴らしかった。タイヤの管理と、タイヤ温度がどれくらいか計るためのアイデアをうまくキャッチするところだとか……あれはマックスが本当に多くのポテンシャルを備えていることを示す“兆候”だった」
その兆候はシーズンが始まってすぐ、事実として証明された。
「マックスは自分が何をすべきかということを、とてもよく理解していると思う。マレーシアでは非常に厳しいコンディションのなかで素晴らしいレースをした。ハンガリーの4位も見事だった。そして、スパのオーバーテイクは彼に何ができるかを示す、一番のハイライトだった」
ベルギーGPの10周目、高速のブランシモンでアウトからフェリペ・ナッセを抜いたシーンはファンの大きな支持を得て、FIAの「アクション・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれた。エンジン交換によるペナルティを背負い、18番グリッドからスタートして8位でゴールを果たしたレースだった。
「僕は自分にできること、できないことを理解できていると思う」と、まだ17歳だったドライバーは自信を持ってレースを振り返った。
「もし『ちょっとリスキーだな』と思ったら、自分を抑えることもできる。でも、あんなに後方からスタートした場合には、自分のコントロール下においてリスクを背負わなきゃいけない局面もあると思う。ただ後ろに留まっているだけだとポイントを獲ることもできないわけだから」
「ブランシモンのオーバーテイクは、ものすごく難しい動きだった。でも僕はスタブローの出口で、いい加速を得てスリップストリームを生かすことができたから、すべてのパワーを使って……アウト側に出るのは、とてもリスクが大きかったけど、幸いうまく切り抜けることができた」
躊躇なくアクセルを踏み続け、安定したダウンフォースを得ることによって高いスピードでマシンの姿勢を保つ。行くと決めたときの彼のハートは強靭だ。でも……心に残ったのは、彼が自らの“武勲”を語るのと同じトーンで「それにね」と付け加えた、こんな言葉だった。
「ちゃんとスペースを残してくれたフェリペ(ナッセ)に対して、僕はすごく敬意を感じているんだ。誰かに抜かれるとき、スペースを残すのは簡単なことではないからね。とりわけ、あんな高速コーナーでは! もちろんオーバーテイクできたことは、とてもうれしかった。けれど、同じ年にデビューしたフェリペとフェアにいいバトルができたことにも僕はすごく感激していた」
思ったことをストレートに言う。ときには、それが必要以上の批判を生むこともある。でもフェルスタッペンの思考は、けっして過剰な自意識に占められているわけじゃない。彼が独創的なオーバーテイクを生み出していけるのは、ドライビングのスキルに加えて、相手の立場で考える冷静な思考を備えているからだ。
「たくさんのベルギー国旗とオランダ国旗が振られていたのには、とても感動した。ああいうのを目にすると特別な気持ちになる。でも、あれはストフェル(バンドーン)のためでもあったと思うんだ」と、笑う。
2015年のトロロッソは、ルノーのパワーユニットだけでなく、多くのマシントラブルを経験した。おかげでレースを失うことも、グリッド降格のペナルティを背負うこともしばしばだった。それでも困難な状況から脱出しようとするときには、経験不足がマイナスに働く以上に、若さがプラスに作用した。ジェームス・キーも「おそらく、そうだと思う」と認める。
「マックスもカルロスも初めてのシーズンだから、次のレースに向かうときには、ある意味、たとえば今週の落胆を忘れることができるんだ。何年もF1で走ってきたドライバーなら、これまで起こったことを心配するだろうし、モンツァでは何ができるとか、シンガポールには何が期待できるとか、わかってしまうからね。
ただし、両方の見地から見ることが必要だ。まだF1を学んでいる段階では、とても感情的になっても不思議じゃない。でも、ふたりとも怒りを露わにするようなことは一度もなく、レースしたぶん成長している。前進することだけを考えているよ」
フェルスタッペンの強みは攻撃性で、チームが「マックスならできる」と判断した作戦を期待どおり、あるいは期待以上にベストの状態で遂行できる点だ。まだ粗削りでミスもするしペナルティも受けるけれど、おそらく、それは早く成長するためにフェルスタッペン自ら許容しているリスクとミス──だから必ず挽回してくる。
「スパのようなレースができたのは、精神的にも、すごくポジティブだ。突き詰めて考えると、あんなに後ろからスタートするのは良い材料じゃないし、もっと前からスタートしたいと思う。それでも、後ろからスタートしても、僕は『あらゆる可能性が、まだ残されている』と考えることができる。難しいとわかっていてもポジティブであり続け、トライする気持ちを失わないでいることができる」
出る杭は打たれるのがF1界の不文律。物怖じすることなく攻める「最年少ドライバー」は、これからもきっと批判され、理不尽を経験する。思ったとおりの反論を口にすることによって、スチュワードを敵に回してしまうこともある。
「人と違っててもいいじゃないか」と、ジェームス・キーは言った。
「大切なのは、マックスがドライバーとして自分の考えを持っていることだよ」
丸くなってコース外で巧く立ち回るより、いまのまま、コース上でアタッカーとして成長のカーブを描いてほしいと思う。
レギュレーションの変更によって“最後の最年少F1ドライバー”になったフェルスタッペンには、もっともっと若さを力に変えてほしいと願う。カートで走り始めたときから数えれば、もう14年──こんなに前から、彼は天性の才能と一緒に生きてきたのだから。