5月23日にフォーミュラE第8戦として行われたベルリンePrix。基本的には公道コースを使って行われるフォーミュラEだが、ベルリンePrixは閉鎖されたテンペルホーフ空港の跡地を使った、1周2.5kmのコースを使って行われた。アップダウンは少なく平坦だが、コンクリートの路面、そして非常に複雑なレイアウトが、ドライバーたちを苦しめる。
ポールポジションからスタートしたのは、トゥルーリのヤルノ・トゥルーリ。今季ここまで苦戦を強いられ続けてきたトゥルーリだが、F1時代は予選での速さには特に定評があったドライバー。久々にそのスピードを発揮し、フォーミュラEでは自身初、F1時代から換算すると、2009年バーレーンGP以来となるポールポジションを獲得した。
しかし、レースで速さを見せたのは、アウディ・アプトのルーカス・ディ・グラッシ。ディ・グラッシは、開幕戦の北京ePrixで勝利を得て以来、安定して上位フィニッシュを続けており、現在ポイントランキング首位。初代チャンピオンを目指し、2番グリッドから抜群のスタートを決め、3コーナーでトゥルーリがブレーキをロックさせた一瞬の隙を見逃さず、オーバーテイクを成功させて早々に先頭に立つ。一方、後方ではディ・グラッシのチームメイト、ダニエル・アプトがスピン。最後尾に下がってしまう。
ランキング2位のネルソン・ピケJr.は予選が振るわず後方からのスタート。しかし2周目に早くもファンブースト(今回のレースではピケJr.の他、セバスチャン・ブエミとシャルル・ピックにファンブーストが与えられている)を使い、アンドレッティのジャン-エリック・ベルニュをオーバーテイクし順位を上げる。ランキング3位、前回のモナコePrixでフォーミュラEでの2勝目を挙げたブエミ(e.ダムス・ルノー)は、トゥルーリの後方3番手。その後ろからはニック・ハイドフェルド(ヴェンチュリ)が追う。
スタートでトップに立ったディ・グラッシは快調に飛ばし、6周目の時点では2番手のトゥルーリに7秒もの差をつけ独走態勢に入る。エネルギーマネジメントもしっかりとできている。そしてこの周、ブエミがたまらずファンブーストを使ってトゥルーリをパス。ここからトゥルーリはリズムが崩れたのか、続く7周目にハイドフェルドやジェローム・ダンブロジオ(ドラゴン)に立て続けにオーバーテイクを許し、ずるずると後退。トラブルが発生したのか、その後もトゥルーリのペースはまったく上がらず、10周目には13番手に落ちる。
その後、ハイドフェルドをかわしたダンブロジオがブエミを攻め立てるが抜けず、各車ピットインのタイミングへ。なお、後方ではピケJr.が徐々に順位を上げる。
16周目、ステファン・サラザン(べンチュリ)とトゥルーリがピットイン。トゥルーリはペースが上がらなかったにもかかわらず、エネルギーの消費量も大きかった。
続く17周目には、先頭のディ・グラッシ、2番手のブエミを含む多くのマシンがピットイン。マシンを乗り換える。ここでコース上に残ったのはピケJr.とピックのネクストEV TCRの2台。レース序盤にエネルギーをセーブし、他車より第1スティントを1周多く走らせる戦略を採った。
このピットストップで、ダンブロジオがブエミの前でコースに復帰し、実質的な2番手。ブエミが3番手、ディ・グラッシは相変わらず悠々のひとり旅で、ダンブロジオに10秒以上の差をつける。後方では、アントニオ・フェリックス・ダ・コスタとサルバドール・デュランのアムリン・アグリのふたりが順位を上げたが、最低ピットレーン滞在時間として規定された63秒を下回ってしまい、ドライブスルーペナルティを課せられてしまう。
18周目にはピケJr.とピックもピットイン。ピケJr.は各車のピットイン前は10番手だったが、全車のピットインが終わった際には、8番手(ダ・コスタのペナルティで、実質的には7番手)に上がり、序盤のエネルギーマネジメントが功を奏する形となった。
ピットストップ後、3番手ブエミのペースが上がらず、4番手のハイドフェルドから執拗な攻撃を受ける。また、そのハイドフェルドをドラゴンのロイック・デュバルが攻めるが、なかなか攻略には至らない。サラザン、ピケJr.も集団に加わってくる。このバトルによってブエミへのプレッシャーが削減されたのか、ブエミとハイドフェルドの差は徐々に広がりを見せる。
28周目、ピケJr.が2回目のファンブーストを使い、サラザンを攻略。しかもピケJr.は他車よりもエネルギー残量が多く、最終盤に向け、果敢に前を負う展開である。
29周目にはデュバルとピケJr.がハイドフェルドをオーバーテイクし、さらに前を追う。
先頭を行くディ・グラッシのペースはその後も緩むことなく、結局33周を逃げ切り、開幕戦に続いて自身2度目のトップチェッカーを受けた。2番手にはダンブロジオで初の表彰台、3番手はブエミ、4番手はデュバル、5番手はピケJr.の順でフィニッシュを迎えている。ディ・グラッシのマシンはフィニッシュラインを越えた後にトラブルが発生し、コース上にマシンを止めている。ポールポジションからスタートしたトゥルーリは、なんと再下位まで落ちてのゴールとなった。
結局今回のレースは、セーフティカーの出動はなく、しかも出走全車が完走している。
ただし、レース後に大逆転劇があった。決勝後の車検でディ・グラッシのマシンに違反が見つかり、失格処分となったのだ。発表によれば、フロントウイングの左右フェアリングの内部構造が、金属部品によって補強されていたという。また、フェンダーに開けられていたウイングアジャスト用の穴8つのうち、6つが塞がれていたという。チームはマシンを修復する際に必要だったと主張したが、テクニカルレギュレーション違反としてレース結果からの除外が決定。チームもこの決定を受け入れ、上告しないことを決めている。
この結果、2番手でゴールしていたダンブロジオがフォーミュラE初優勝。それ以下のマシンの順位もひとつずつ繰り上がっている。
シリーズランキングはピケJr.が103ポイントで首位に浮上、ブエミが2ポイント差の101ポイントで2位、レース結果から除外されたディ・グラッシが93ポイントで3位となっている。
フォーミュラEのファーストシーズンも、残り3レース。次はモスクワの赤の広場横で行われるモスクワePrixである。記念すべき最初のチャンピオンは、果たして誰になるのだろうか?