5月16日、ホンダが2015年からのマクラーレンへのパワーユニット供給を発表し、F1に復帰することを発表した。かつてホンダがF1に参戦していた頃は多くの日本人ドライバーがホンダエンジン搭載車をドライブした経験をもつが、今、国内最高峰シリーズであるスーパーフォーミュラに参戦するホンダドライバーたちは、このF1復帰の報にどんな思いを持っているのだろうか。スーパーフォーミュラ第2戦オートポリスで聞いた。
1987年に日本人初のフルタイムF1ドライバーとして活躍した中嶋悟、そして佐藤琢磨をはじめ、第2期、第3期とホンダF1の活動には、日本人ドライバーの歴史を重ね合わせることができる。国内外でのF1テストに参加したドライバーも多く、第2期の栄光をテストドライバーという形で支えた星野一義ら多くの日本人が、国内のテストでF1のステアリングを握った。
決してこれらのホンダF1エンジンを駆ったドライバーたちが「ホンダのつて」だけでF1をドライブした訳ではないが、日本からF1にたどり着くために、ホンダという強力なパイプを活用していったのは疑いようがない。では、再びホンダがF1に参入しようとしている今、国内のみならず、F1を除けば世界最速のフォーミュラと言われるスーパーフォーミュラで戦うホンダドライバーたちは、ホンダF1復帰の報をどんな風に受け止めているのだろうか。
現代のF1を取り巻く環境は、決して速さやエンジンメーカーの都合でシートが獲得できる状況ではないが、ひとりのドライバーとして、そしてモータースポーツを愛するファンのひとりとして、ホンダF1への思いを、すべてのホンダSFドライバーたちに聞いてみた。
●小林崇志（TEAM無限）
ここ数年、日本企業がF1から遠ざかってしまった状況をすごく寂しいと思っていたので、単純に嬉しいですよね。それが僕たちがお世話になっているホンダということで、ファンとしても嬉しいです。活躍してほしいですよね。
ドライバーとしても、最終目標としてF1というものがあるのとないのでは違う。ホンダドライバー全体のモチベーションも上がると思いますよね。ひとりのファンとして楽しみですし、嬉しいし、純粋に「ホンダはやっぱりすごい」と思います。復帰するだろうとは思っていましたが、本当に復帰しましたからね。
F1の世界に呼ばれるためには、単純に速さもそうだし、結果も必要だと思います。ただ、仮の話でF1に乗る、乗らないという話をするよりも、今目の前にあるレースで結果を求めることが必要だと思います。その上でF1というものが出てくると思う。正直、僕はまだそのレベルの結果を出せていないし、そのことを言えるような結果を目指したいですね。
●山本尚貴（TEAM無限）
単純にF1が好きなファンとして嬉しいし、ワクワクしますよね。ドライバーとしては別に何があった訳でもないし、これから何があると決まっている訳ではないですけど、モチベーションは上がりますね。
F1の世界に呼ばれるためにはまず大前提として、日本でいちばん速く走れるようになることだと思います。ホンダの中でも一番でなければいけないし、日本全体でも一番じゃなければいけないと思います。その上でクルマに対するフィードバックが的確であれば「彼はそういうドライバーなんだ」という話もいくでしょうし、結果としてそういう部分も含めて、F1というステージに立つドライバーには求められると思います。
●塚越広大（HP REAL RACING）
自分自身、今までホンダでやってきた目的というのは「F1をやっていたから」というのもあり、F1に乗りたいがために一生懸命やってきたので、2008年にホンダがF1を撤退した時には本当にショックでしたし、自分自身目標がちょっとブレた部分もありました。
ただ、こうしてホンダがF1に戻ることになって、僕としてはまた向かって行きたい目標がより近いところに来た感じがします。
2008年の時（当時、ホンダの育成ドライバーとしてGP2テストに参加）は、自分が立っていた位置はF1に近かったかもしれないけど、実際にF1までの距離がどれくらいあったかは分からなかった。またその位置に行くのは簡単なことではないし、チャンスも多くないと思っています。だから今は自分ができることに全力を注いでいきたいと思います。
でもこうして、「ホンダでF1に乗る」という目標がこうして戻ってきてくれたことは本当に嬉しいですね。
●中山友貴（HP REAL RACING）
すごく嬉しいニュースでしたよね。ホンダと言ったらF1のイメージでしたし、これから上がってくる若手ドライバーにとっても夢に直結する話だと思います。もちろん自分もチャンスがあれば掴みたいとは思います。
もし国内でテストがあったら？ 乗ってみたいですよね〜（笑）。でもそのためには、僕は今年スーパーフォーミュラでいいチャンスをもらっていますし、そういう話に近づけるためにも、今ある自分の仕事を頑張ってこなさなければならないと思いますね。
F1をメーカーでやってくれているのは、全員にとってモチベーションが上がる話だと思いますし、スーパーGTでも来季はクルマが変わってNSXが出ますからね。ホンダの力の入れ具合にすごく熱さを感じています。
●中嶋大祐（NAKAJIMA RACING）
ウワサは前々からありましたが、僕自身も具体的な話を聞いていた訳ではなかったので、「えっ!? ホントなんだ」と驚いた部分はありました。最初、新聞に記事が載った時に「いよいよだな」と感じましたね。
それと、世間のリアクションも驚きました。僕が思っていた以上に反応が大きくて、「世の中って不思議だな」と思いました（笑）。ホンダが08年に撤退した時って、株価が上がったじゃないですか。「それだけ受け入れられてないのかな……」と感じました。今は景気が良くなったのもありますけど、これだけ温度差があるかと思うと不思議でしたね。
素直に復帰は嬉しいですね。いちドライバーとしても、ファンとしても。もちろん直接的な目標としては、今出ているレースでひとつでも良い結果を残すことが大事なんですけど、スーパーフォーミュラからどうこうという道筋が、以前よりは濃くなるのは間違いないと思います。ホンダがF1に出るからというのはすぐには関係ないかもしれないけど、心理的に近づくのは間違いないと思います。
ホンダがF1に出るからモチベーションが上がる……ということではダメなんですけど、多少意識としてでてくるのは間違いないでしょうね。多少距離が近づくことは感じると思います。
●小暮卓史（NAKAJIMA RACING）
素晴らしいことだと思います。ずっと撤退したままとは思っていなかったですし、こうして復帰してくれたのは嬉しいし、やっぱりF1があるというだけで違う。僕なんかは年齢的にも厳しくなっていますけど、やり甲斐がありますからね。
（08年にF1のテストドライブをしましたが）
年齢的なことはありますけど、もちろんまたやってみたい。自分がずっと御世話になってきたメーカーがF1をやってくれているのは純粋に嬉しいですね。
●武藤英紀（DOCOMO DANDELION）
すごいことですよね。僕よりも若い世代のドライバーにとって、すごくいい目標ができたと思います。僕は今、FCJの講師もやっていますけど、そういう視点から見てもいいことだと思いますし、モチベーションも上がると思う。ただ参戦するだけではなくて、若い選手たちの技量も上がって、全体的な底上げになるんじゃないでしょうか。
でも夢だけじゃたどり着けない世界だし、速さはもちろん語学力も絶対に必要ですからね。そのあたりを理解しないといけないでしょう。ましてあれほど世界を転戦する訳ですからね。体力もメンタルも強くないと。（キミ）ライコネンみたいな微動だにしないような相手とやり合わなきゃいけないくらいですから（笑）。
本当にすごくいいニュースでしたよね。それと、これからずっとやってほしいと思います。“第四期”とかそういうくくりじゃなくて、これからずっと続けて欲しいと思っています。
●伊沢拓也（DOCOMO DANDELION）
『マクラーレン・ホンダ』という響きがすごくドキドキしますよね（笑）。世代ではないですけど、その凄さは十分知っていますし、やはりあの頃の方が世の中にも浸透していたというか、ホンダF1と言えばあの頃だと思うんです。その名前が復活するのは、本当に楽しみですね。
国内についてはいろんな状況がありますけど、1％でも乗ることができる可能性があるなら、それに向けて頑張りたいとは思います。別にモチベーションが変わらないとは言わないですけど、それほど大きく変わるとは言えないかな？
数年前にこの話があったとしても、自分には権利がありませんでしたからね。今の自分の状況を考えると、何％可能性があるかは分かりませんけど、ゼロじゃないのかな……とは思っています。
※掲載はスーパーフォーミュラのカーナンバー順
