去年までロータスに在籍していたパストール・マルドナド、通称「師匠」は、今どうしているのだろうか。その消息を訊こうと、バルセロナのテスト現場でベネズエラ人ジャーナリストを探したのだが「そんなの、一人も来てないよ」と、南米フォックスTVのアルゼンチン人リポーターに言われてしまった。「パストールが走ってた時だって、年間でせいぜい1戦か2戦、一人だけ来てた感じかな」とのこと。
「え、ベネズエラって、F1は人気ないの?」
「いやいや、そんなことない。うちのF1中継にしたって、ブラジルやメキシコほどじゃないけど、ベネズエラでけっこう視聴率を稼いでるからね」
もちろんマルドナドも、祖国で大人気だったそうだ。「だった」と過去形で言うのは、F1シートを失ったからばかりではない。彼は故チャベス大統領の全面的財政サポートを受けて、F1まで上り詰めることができた。しかしベネズエラではここ数年、「反チャベス」の大きなうねりが起き、「パストールはいいヤツだけど、チャベスに援助されてるから応援しない」という公言するファンが増えたのだという。
それでもF1自体の人気は、まだまだ根強いものがあるし、専門雑誌の売れ行きも悪くないという。なのになぜベネズエラ人ジャーナリストはF1に来ないのか。
「来ないんじゃなくて、来れないんだ。ベネズエラは、外貨統制が厳しくてね。確か1回の外国旅行に、最高1000ドルしか持ち出せないはずだよ」
なるほど、納得である。で、肝心のマルドナドの消息だが……。
「知らないなあ。誰も、聞いてないんじゃないかな。解雇された直後に電話インタビューしたんだけど、それっきりさ」
ちなみにその時マルドナドは「すごく驚いてる。2016年も走れると、ルノーから確約されてたからね」と、答えてたそうだ。
しかし、このアルゼンチン人リポーターは「いや、彼はわかってたはず」と断言する。「だってベネズエラ政府からの金が、完全に止まってしまったんだから。今やベネズエラでは、経済危機でガソリン価格が60倍以上に跳ね上がって、F1どころじゃない。パストールはスイスとマイアミに家を所有してるはずだから、おそらくそこで悠々自適に暮らしてるんだろうけどね」